企業法務 中小企業における名目的取締役の責任とは

2021/01/29
企業法務 中小企業における名目的取締役の責任とは

親族や友人などに中小企業の経営者がいる場合、名前だけ取締役になってほしいと頼まれることがあるかもしれません。

会社の取締役になるとどのような責任を負うのでしょうか?

取締役とは何か

取締役とは

取締役とは、会社の機関である取締役会の構成員であり、取締役会を通じて会社の業務執行の意思決定及び職務執行の監督に関与する者のことです。

取締役は、代表取締役の業務執行の全般について監視しなければならず、必要があれば取締役に対し取締役会を招集することを要求する、または、自分で取締役会を招集して取締役会を通じて業務の執行が適正い行われるようにするべき職責を負うことになっています。

通常は、取締役は、このような業務を行うことと引き換えに役員報酬を受け取っています。もちろん、無報酬で取締役を引き受けることもできます。

取締役の責任

取締役は、株式会社に対する責任、会社の所有者である株主に対する責任、会社の取引先、債権者など第三者に対する責任を負います。

無報酬でも法的な責任を負います。

取締役の責任の軽減・免除

会社に対する責任の免除

株主全員の同意による免除株主の同意があれば、取締役の責任を免除することができることになっています。株主総会の特別決議による責任免除すべての株主が同意しなくても、株主総会において、出席した株主の3分の2以上の賛成(特別決議)があった場合には、取締役の責任を免除することができることになっています。ただし、取締役が善意無過失であること、株主総会での説明義務を果たすことが必要です。なお、監査役設置会社・監査等員会設置会社・指名委員会等設置会社では、責任免除の可否を株主総会の議題にするために、監査役、監査等委員、監査委員の同意が必要ということになっています。取締役会による責任免除監査役設置会社・監査等員会設置会社・指名委員会等設置会社では、その責任を問われている取締役を除く取締役の過半数の決議によって、その取締役の責任を一部免除することができます。この場合でも、取締役が善意無過失であることが必要であるほか、事前に定款に「取締役会決議によって責任を免除できる」との定めをしておくことも必要です。責任限定契約取締役が職務を行うにつき、善意無過失のときは、定款で定められた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を責任の限度とする契約のことです。責任限定契約は、あらかじめ会社と契約を結んでおくだけではなく、「責任限定契約によって責任を免除できる」定款の定めもあることが必要です。最低責任限度額に注意株主全員の同意による場合を除いて、取締役の責任はすべて免除されるというわけではなく、「最低責任限度額」というものが定められています。最低責任限度額は、社内取締役は、「年間報酬等の4倍」、社外取締役は「年間報酬等の2倍」までです。なお、責任限定契約を締結する場合には、あらかじめ、定款で任意の「最低責任限度額」を定めることもできます。定款に任意の「最低責任限度額」がある場合には、定款の定めと上記の年間報酬等の4倍(又は2倍)のいずれか高い方が実際の限度額になります。

第三者に対する責任

取締役が職務を遂行する時に悪意、重大な過失があった場合には、第三者へ損害賠償する責任を負います。

このような取締役の第三者に対する責任の免除の方法については、会社法には規定はありません。

もっとも、会社役員賠償責任保険への加入しておくということで備える方法はあります。この場合、会社が契約者、役員が被保険者となりますので、会社に加入してもらうことになります。

名目取締役

名目取締役とは

名目取締役とは、名前だけの取締役のことを言います。

中小企業の場合には、人数合わせのために、家族、親族や古株の従業員などに取締役に名前だけ連ねてもらうことがあります。

また、会社の信用をつけるために、社会的立場のある人に名前だけの取締役になってもらうこともあります。

もしくは、配偶者や子に役員報酬を取らせるために、配偶者や子を名前だけの取締役にすることもあります。

このような場合に、名目取締役が置かれることになります。

以前の商法では、取締役が3人必要でした。そのため、人数合わせのための名目取締役を置くこともありました。

しかし、現在の会社法では、会社法第326条によって、取締役は1人でもよいことになっています。そのため、必ずしも、人数合わせのために名目取締役を置く必要はなくなりました。

しかしながら、取締役会設置会社では、現在の会社法においても、3人以上の取締役が必要です。取締役会設置会社の方が、一般的な信用度が高くなりますので、取引先との関係や銀行との関係から、中小企業でも取締役設置会社にして、3人の取締役を必要とする場合もあるようです。

また、社会的に地位のある人の信用を利用したいというニーズも一定程度あるでしょう。

そのため、商法から会社法への法改正を経ても、名目取締役の問題がなくなってはいません。

名目取締役の責任

中小企業では、株主も親族ということが多いでしょうから、株式会社に対する責任、株主に対する責任については、それほど問題になることはないでしょう。

必要であれば、上記の責任限定契約などを利用することも考えられます。

しかし、名目取締役も第三者に対する責任だけは逃れることができません。

旧商法時代の判例ですが、最高裁判所昭和55年3月18日判決では、会社の代表取締役Aから、いわゆる「社外重役」となることを頼まれて、名目取締役になっていたBの責任ついて、「会社の取締役に就任したものの、右就任は、Bにおいて会社に常勤せず、その経営内容にも深く関与しないことを前提とするいわゆる社外重役として名目的にしたものであり、実際にもBは会社に一度も出社したことがない」としても、Bは、取締役として、代表取締役の業務執行を監視するという職責を尽くさなかったことから、第三者に対する責任を負うと判示しました。

つまり、名目取締役であっても、第三者に対する責任を負うということが明示されたのです。

商法が会社法に変わっても、名目取締役の第三者に対する責任を免除することができるような条文はなく、上記最高裁判所判例が妥当することに変わりはありません。

なお、小規模な会社で、取締役が会社の業務に全く関与せず、会社の業務は実質上の経営者が独断で行っていた場合で、名目取締役が報酬を受け取っていないか、報酬が少額で合った場合などの要件の下で、名目取締役には監視義務違反による責任を負わせないという下級審判例もありますが、商法で3人の取締役が必要だったころのものであり、あまり厳しく名目取締役の責任を追及すると、小規模会社の取締役になってくれる者がいなくなるという実態もあってのもののようです。

現在の会社法では人数合わせの必要はなくなりましたから、上記最高裁判所判例の存在を踏まえると、名目取締役が責任をまぬかれるのはハードルが高いといえるでしょう。

まとめ

取締役になるということは、取締役としての責任も負うということだということを理解し、「名前を借りるだけだから」「迷惑をかけないから」と言われても、安易に取締役にならないようにしましょう。

お金はもらう、もしくはメリットは享受するけれど、責任は取らないということは認められません。

役員報酬を受け取るために取締役になる場合には、第三者に対する責任があるということを自覚しておくしかありません。

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