離婚相談 養育費の支払い遅滞時の対処法

2021/06/04
離婚相談 養育費の支払い遅滞時の対処法

協議離婚をした際に養育費の取り決めをしたのに約束とおりに支払ってもらえない、確実に支払ってもらうためにはどうしたらよいかという相談が多く寄せられています。

そこで、今回は、協議離婚後に養育費の支払いが滞った場合の対処方法や養育費の支払いを確保する方法についてお話ししたいと思います

協議離婚後に養育費が滞った場合の対処方法

まず、養育費の支払いを確保するための法律上の制度としては、①強制執行、②履行勧告、③履行命令などがありますが、これらの制度を利用するためには、相手方の養育費支払い義務が確定していることが必要となります。

そこで、協議離婚をした際に、養育費の取り決めをどのような方法(公正証書を作成したか、口頭での約束か公正証書以外の書面で取り決めしたのかなど)で残したかということが重要になります。

以下、協議離婚の際に養育費の取り決めを行った方法によって、今後どのような対応を取るべきか説明したいと思います。

もし、現在、協議離婚をお考えで養育費の取り決めを検討されている場合は、公正証書を作成して養育費の支払い義務について定めることをお勧めします。

公正証書を作成している場合

協議離婚の際に公正証書を作成し、養育費の支払義務についても定めている場合は、公正証書に基づき上記①の強制執行をすることができます。

これは、平成16年の民事執行法の改正により、養育費や婚姻費用などの民法上の扶養義務に基づく定期金債権については、一部でも不履行があれば、支払期限が到来していない将来部分についても一括して強制執行ができるとする特例が定められたことに基づくものです。

ただし、この特例条項に基づき差し押さえることができる財産は、給料のほか、地代・家賃等の賃料債権、商品・役務の継続的供給契約に基づく売掛金などで、養育費等の支払期限後に支払われるものに限られます。

この特例条項によれば、離婚した夫(相手方)が会社員である場合、元夫が1回でも養育費の支払いを怠れば、元妻は地方裁判所に対し将来にわたる給料債権の差し押さえを申し立てることができます。

申立てが認められると、元妻は、元夫の会社に対して毎月の給料のうち養育費相当分を自分に支払いよう求めることができます。

また、養育費などの扶養義務に係る金銭債権に基づく強制執行の場合には、給料等の2分の1まで差し押さえが認められています。

さらに、養育費の支払いを求めて強制執行を行ったけれども完全な弁済を得ることができなかった場合や、元妻(権利者)が知っている元夫(義務者)の財産に強制執行をしても弁済を得る見込みがない場合には、元夫(養育費等の支払い義務者)を裁判所に呼び出し、義務者の財産について陳述させる財産開示制度も利用することができます。

公正証書によらない取り決めの場合

協議離婚の際に公正証書を作成せず、口頭や公正証書以外の書面で養育費の取り決めをしただけの場合は、①地方裁判所に契約に基づく債務履行請求として訴えを提起する方法、もしくは、②家庭裁判所に改めて養育費支払いの申立てをする方法により、まず、養育費の支払義務を確定する必要があります。

① 地方裁判所に契約に基づく債務履行請求として訴えを提起する方法

①の考え方については、離婚に際して夫婦間で養育費について取り決めがなされている場合、それは養育費について協議し、合意が成立しているとみることができます。

つまり、養育費支払いについて契約の合意があったとみて、支払義務者の不払いは契約不履行ということになり、地方裁判所に履行を求めて給付請求の訴えを提起することができるということになります。

② 家庭裁判所に改めて養育費支払いの申立てをする方法

②の考え方については、離婚に際し夫婦間で養育費についての取り決めがあったとしても、その取り決めは合意とは言えない不確定なものであるかもしれず、また、不履行という事実そのものが合意の不確定さを物語っているのだから、当事者に協議が整わない場合に当たるとして家庭裁判所に養育費の支払いを申し立てることができるというものです。

①と②どちらの方法が良いか

理論的には上記2つの方法をとることが可能ですが、専門家からの立場から申し上げますと、②の家庭裁判所における話し合いをお勧めします。

これは、養育費の支払いは通常長期にわたることが多く、しかも確実に支払ってもらわなければ母子の生活が守られないということもある一方で、支払義務者である元夫の方にも、給料の増減や再婚の有無といった離婚後の生活の変化があることも考えられるのですが、家庭裁判所の調停であれば、双方の事情の変化についても総合的に判断し、改めて妥当な額を決めてもらうことができるためです。

また、費用の面でも、訴訟(給付請求の訴え)の場合には、ご自身で複雑な法律問題に対応するのは難しいと思われますので、代理人に依頼をするなど訴訟費用がかかるのに対し、家庭裁判所の調停の場合は印紙代と郵便切手代のみ(目安として2000円程度)で、代理人に依頼することなく本人で手続きをおこなうことができます。

調停においては、できるだけ任意の履行がなされるよう十分に話し合いを行い、お互いが納得する調停条項を作成することが大切です。

なお、家庭裁判所における調停において養育費支払義務が確定した後、支払確保について、①強制執行、②履行勧告、③履行命令のいずれの手段もとることが可能です。

お子さんの養育が著しく困難な経済状況に陥っている場合

さらに、元夫からの養育費支払いが滞っていることにより、お子さんの養育が著しく困難な経済状況に陥っている場合には、まず、子どもの監護費用分担の審判又は扶養の審判の申立てを行い、審判前の保全処分という制度を利用することも検討することができます。

これは、本案(今回のケースでは、養育費支払いの調停申立て)の審判が確定する前に、当事者からの申立てに基づき、強制執行を保全したり、子の急迫の危険を防止する必要があると裁判所が認めたときに行われる仮差押え、仮処分、その他の必要な保全処分ですが、この保全処分を利用するためには、申立人が本案の審判で申立人の請求が認められる蓋然性が高いこと、保全の必要性があることを疎明しなければなりません。

養育費の支払確保

養育費の支払確保の手段としては、①強制執行、②履行勧告、③履行命令、④審判前の保全処分等の制度があります。

①の強制執行には、判決や調停調書、公正証書などの強制執行力のある書面(債務名義)が必要です。

②と③は、家庭裁判所において、養育費についての判決がなされたか、調停調書、審判書に養育費の支払義務が記載されている場合に利用できる制度です。④は、家庭裁判所に養育費についての審判の申立てをしたときに急を要する事情がある場合に、審判に先立って仮差押え、仮処分等の保全命令を命じてもらうものです。

以下、それぞれの制度について解説したいと思います。

強制執行

強制執行は、判決や調停調書、公正証書などの強制執行力のある書面(債務名義)により良い宇久日が定められている場合に、債務名義に基づいて地方裁判所に強制執行の申立てをし、支払義務者(元夫)の財産から強制的に支払いを確保する制度です。強制執行については、上記2-1において説明しているとおりです。

履行勧告

履行勧告は、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない人に対して、それを守らせるための制度です。

相手方が取り決めを守らないとき、家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすると、家庭裁判所では、相手方に取決めを守るように説得したり、勧告したりします。

履行勧告の手続に費用はかかりませんが、義務者が勧告に応じない場合は支払を強制することはできません。

ただし、裁判所からの督促であることから、履行勧告によって任意の支払いに応じるケースも多いようです。

履行命令

この制度は、上記の履行勧告よりも厳しいものとなります。履行勧告によっても支払われない場合に権利者から申立てがあると、家庭裁判所が相当と認める場合に、相当の期限を定めて義務の履行を命令する制度です。

もし相手方が、正当な理由なく履行命令に従わない場合、家庭裁判所によって10万円以下の過料の支払が命じられる場合があります。

家庭裁判所は、この履行命令を出す前には、必ず相手方の意見を聞くことになっていますが、呼び出しても相手が出てこない場合は申立どおりの命令が出る場合があります。

しかし、義務者に資力がなく履行困難な場合であることなどを理由に履行命令が発せられることはほとんどなく、権利者は最終的には強制執行のよって履行を確保するしかないというのが実情です。

審判前の保全処分等

この制度については、上記「お子さんの養育が著しく困難な経済状況に陥っている場合」において説明しているとおり、まず、子どもの監護費用分担の審判又は扶養の審判の申立てを行い、審判前の保全処分という制度を利用することも検討することができます。

以上のように、協議離婚の際にどのような方法で養育費の取り決めを行ったかで、養育費の支払が遅滞している場合の対処方法が変わってきます。

また、養育費の支払確保についても、相手方が家庭裁判所の履行勧告に応じて任意に支払いをしない場合には、強制執行手続きによって履行を確保せざるを得ないという実情があります。

しかし、給料債権を差し押さえられてしまうと会社に居づらくなるという理由で仕事を辞めてしまったり、どうせ差し押さえられるからと仕事を辞めてますます支払いを怠るようになりかねないというリスクがあります。

平成16年の民事執行法の改正により、給料債権等の差押えが容易にできるようになったとはいえ、いきなり強制執行の手続きをとる前に、任意に自発的に支払ってもらうよう働きかけたり、弁護士を代理人として話し合いに応じてもらうよう試みたり、履行勧告の制度を利用するなど、相手方の離婚後の生活状況なども含め慎重に検討することが必要です。

養育費の支払遅滞やでお困りの場合は、自分だけの判断であきらめてしまうことなく、自分のケースではどのような対応をとることが可能で、どういう方法で相手方への働きかけを行うのが最適かなど、同様の案件について経験豊富な弁護士に一度ご相談されることをお勧めします。

また、現在、離婚協議中の方は、離婚に伴う夫婦間の取り決めについては公正証書を作成することをお勧めします。離婚に伴う公正証書の作成についても、ご相談いただく方の立場に寄り添った適切なアドバイスを差し上げたいと思いますので、お気軽にご相談ください。

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