自己破産 自宅を任意売却する際に注意すべき点

2021/06/12
自己破産 自宅を任意売却する際に注意すべき点

はじめに

自己破産の申立てを検討されている方で、自宅として居住している不動産をお持ちの場合、この自宅不動産を、破産申立前に売却した方がよいのか、それとも破産申立後に売却した方がよいのか迷われている方も多いかと思います。

今回は、自己破産の申立てを検討するとき、自宅不動産を任意売却する場合に注意すべき点について説明したいと思います。 

自宅不動産を保有している場合の申立てについて、「同時廃止」が認められる場合

自己破産の手続きには、「同時廃止」と「管財事件」という2つの進め方があります。

「同時廃止」とは、破産者がまとまった財産持っていない場合にとられる手続です。

これに対し、「管財事件」といって、破産者が一定の資産を持っている場合には、管財人が裁判所から選任され、管財人が破産者の財産の管理・換価処分等を行う手続きがあります。

この管財事件の場合は、予納金(裁判所に納めるお金)の他に、管財費用として少額管財事件で最低20万円、通常管財事件では最低50万円が必要となります。

これに対し、同時廃止の場合は、予納金(裁判所に納めるお金)のみ(2万円かからない程度)ですので、管財事件となると、管財費用の負担が増えることとなります。

同時廃止となるか管財事件となるかは、破産者が一定の資産を持っているかどうかという判断基準によって振り分けられますが、住宅等の不動産を所有している場合は、一定の資産を持っているといえることから、通常は管財事件となります。

しかし、自宅不動産以外にめぼしい資産がなく、この不動産に住宅ローンを被担保債権とする抵当権が設定されている場合で、この被担保債権額が不動産の換価価値を明らかに上回るとき(いわゆるオーバーローン状態)は、自宅不動産を保有したまま自己破産の申立てを行っても、同時廃止が認められます。

これは、明らかにオーバーローン状態である場合、その不動産を売却したとしても、抵当権等を持つ債権者のみが優先して売却代金を受け取り、他の債権者が売却代金を受け取ることはできませんので、このような場合には、その不動産は他の債権者にとって価値がなく、破産者に資産がほとんどない場合と変わらないので、同時廃止事件として取り扱われます。

なお、大まかな目安としては、その不動産によって担保される借金の総額がその担保不動産の換価価値の1.5倍以上である場合は、不動産を所有していても同時廃止として取り扱われますが、詳しい判断基準については各裁判所によっても若干異なりますので、次項において説明します。 

破産手続きにおいて、不動産を資産として扱うかどうか(資産性)の判断基準

不動産を破産手続きにおいて資産として扱うかどうかの判断基準については、東京地方裁判所と大阪地方裁判所、その他の地方裁判所によって若干異なります。

それぞれの裁判所の判断基準は以下のとおりです。

1.不動産の資産性についてそれぞれの裁判所の判断基準

(1) 東京地裁における判断基準被担保債権残額(その不動産によって担保される借金の総額)が不動産の「処分予定価格」の1.5倍を超えるときは、当該不動産を資産として評価しません。
ここでいう「処分予定価格」とは、一般市場で売却可能と見込まれる市場価格の幅の中での低めの水準と考えられ、以下(2)に記載の大阪地裁における査定書の価格とほぼ同一レベルの金額と考えられます。
疎明資料としては、複数の不動産業者の査定等、客観性があり、かつ当該不動産の実際の取引状況を反映したものが必要です。(2) 大阪地裁における判断基準① 被担保債権残額(その不動産によって担保される借金の総額)が固定資産税評価額の2倍を超える場合、もしくは、
② 上記割合が1.5倍を超えて2倍までの場合は、被担保債権残額(その不動産によって担保される借金の総額)が査定書の評価額の1.5倍を超える場合には、資産性がないとして同時廃止が認められます。
疎明資料としては、当該不動産に関する不動産業者作成の査定書のほか、近隣の取引事例に関する複数の取引業者からの電話聴取書、正式・簡易不動産鑑定書、競売手続きが進行している場合は、売却基準額(買取可能価額)がわかる資料(評価書・期間入札の通知書等の写し)等が必要ですが、内容や金額に明らかに合理性が認められない場合を除き、1社の査定書で足りる運用がなされています。(3) その他の地裁の場合被担保債権残額(その不動産によって担保される借金の総額)が固定資産税評価額もしくは査定書による評価額の約1.2倍から約1.5倍を超える場合は、当該不動産に資産性がないと判断されています。
なお、福岡地裁の場合は、原則、被担保債権残額(その不動産によって担保される借金の総額)が固定資産税評価額の1.3倍を超える場合は資産性がないとみなされますが、近時の不動産価格の上昇に伴って、当該不動産の立地条件等によっては被担保債権残額が固定資産税評価額の1.3倍を超える場合であっても査定書等の提出が求められる場合もあります。

2.借地上の建物の場合

原則、敷地の固定資産税評価額に路線価図の借地権割合等を乗じた金額を建物の固定資産税評価額に加算して不動産の換価価値を算定します。

3.不動産が夫婦共有で、全体に担保権が設定されているときに夫のみが破産申し立てをする場合

夫の共有持分部分のみではなく、不動産全体の評価額を基準にして不動産の換価価値を算定します。 

資産性のない(明らかなオーバーローン状態の)不動産の任意売却を行う時期の検討

自己破産を検討している場合で、明らかなオーバーローン状態で資産性のない不動産の任意売却するとき、破産申立て前の段階で任意売却すべきか、不動産を保有したままで破産申立てを行うべきか、そのメリットやデメリット、注意点などについて説明したいと思います。

1.破産申立て前の段階で任意売却を行う場合

この場合のメリットとしては、担保権者と交渉をして、早期に任意の明け渡しをすることに応じる代わりに、一定額の引越代(目安としては30万円から50万円程度)や固定資産税のうち売主(申立人)の日割り負担分を売却代金から支出してもらえる場合があります(なお、売却後の固定資産税の日割り負担分については買主の負担でと契約で定めることが必要です。)。

他方で、デメリットとしては、破産申立て前に不動産からの退去を求められますので、明け渡しを急ぐ必要があり、家賃支払いの負担がより早く生じることになります。

また、破産申立て前に任意売却する場合でも、担保権者の同意を得て売却することになりますので、申立て後、管財事件に移行した上で不動産の売却価格が低廉であるとして否認されるといったリスクはそれほど高くはありませんが、売却の際には、不動産業者から査定書を取り付け売却価格が適正なものとなるよう注意を払う必要があります。

なお、不動産の売却や決済までに時間がかかり、破産申立て自体が遅れることで、債務がさらに増大したり、他の資産が流出しないよう配慮する必要もあります。

2.不動産を保有したままで破産申立てを行う場合

破産申立て後、同時廃止決定の後に、任意売却あるいは競売のいずれかで処分することになります。

メリットとしては、不動産の売主である申立人は、不動産の処分が完了するまでの間、不動産を継続して利用することができ、一般的には、任意売却よりも競売の方が、不動産の処分完了までに時間を要しますので、それまでの間は、新たな家賃支払いの負担なく、当該不動産に居住を続けることができます。

他方で、デメリットとしては、競売の場合は、競落人との交渉により引越代が支払われることもありますが、固定資産税については、その法定期限が抵当権設定前でない限り、売却代金から支払われることはなく、競落人との間で固定資産税の日割清算が行われることもないため、当該年度分の全額を負担する必要があります。 

まとめ

以上のとおり、自己破産の申立てを検討されるとき、自宅不動産をお持ちの場合は、明らかなオーバーローン状態であるかどうか(資産性)で同時廃止か管財事件かの振り分けがなされることやその資産性の判断基準については、各裁判所の運用について事前に十分検討しておく必要があります。

また、不動産の任意売却を行うにあたっては、そのタイミングについても申立人の生活状況(転居に伴って負担すべき費用の問題や転居に伴う家族の就学先や就業先への影響、抵当権者の意向や早期に破産申立てをする必要性の有無等)などを総合的に考慮して、適当な売却時期を選択する必要もあります。

これらの総合的な判断は法律上の難しい問題も含んでいるため、費用の負担をより軽くしたり、後々のトラブルを避けるためにも、自分だけの判断により対応することなく、弁護士と相談した上でより適切な選択をして手続きを進めるようにしましょう。

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