過失割合を決める基準について
「交通事故に遭い、相手方の保険会社から示談提示を受けたが、過失割合について納得いかない!!どのようにして過失割合を決めればいいのでしょうか?」
過失割合、過失相殺とは
交通事故の当事者間において、過失割合をめぐって争いが生じることは少なくありません。
交通事故における過失割合とは、交通事故発生に対する両当事者の責任・寄与度の比率を20:80、60:40というように数値化したものです。
数字が大きい方が当該事故における加害者、小さい方が被害者と呼ばれます。
自動車事故では、どちらか一方の当事者に全ての責任あり(すなわち10:0もしくは100:0と言われる事故)とされるのは稀で、被害者の方にも少なからず責任ありと判断されるのが通例です(10:0もしくは100:0と言われる事故は、典型的には「停車中の車両に追突した場合」「センターラインオーバーをして対向車と衝突した場合」等)。この際に両者の責任割合を示すものが過失割合なのです。
被害者にも交通事故の過失がある場合には、その過失割合に応じて被害者が加害者から受け取ることのできる損害賠償金が減額されることになります。これを過失相殺と言います。
例えば、信号機の設置されている交差点において、青信号を直進している車両(四輪車)と青信号を右折している車両(四輪車)とが衝突した場合、基本の過失割合は、直進車:右折車=20:80となります。
この交通事故によって被害者(直進車)が合計500万円の損害を被ったとすると、その被害者にも20%の過失があるので、被害者が実際に加害者に請求することができる損害賠償金は、
500万円×(1−0.2)=400万円となります。
被害者の過失割合が大きければ大きいほど加害者から最終的に支払われる損害賠償金の額は小さくなりますから、過失割合は損害賠償額を決める示談交渉や裁判で非常に重要なものとなります(加害者側は本人ではなく、加害者に変わって過失割合の示談交渉するのは、多くの場合、保険会社です)。
そこで、以下では、交通事故に遭い、相手方の保険会社から示談提示を受けたが、過失割合について納得いかない!!そもそも、どのようにして過失割合を決めればいいのか分からないという方のために、「過失割合を決めるにあたっての基本的な基準」「過失割合に争いがある場合に過失割合を決定する手続」「どのような証拠資料に基づいて過失割合が決められることになるか」について、解説します。
過失割合を決めるにあたっての基本的な基準
我が国において、交通事故は、年間45万件ほど発生しており、全く同じ態様の交通事故はないとしても、多くの事故態様について、過失割合をどのようにして決めるのかという観点から類型化がなされており、大部分の交通事故については、定型的に過失割合を定めることができます。
既に述べたように、交通事故の態様は、個別具体的な事故ごとにそれぞれ異なるもののです。
しかし、同じ類型の交通事故について裁判で認定される過失割合にばらつきがあると、法的安定性と裁判の予測可能性が失われ望ましくありません。
そこで、交通事故の類型ごとに過失割合の基準をまとめた過失相殺基準が実務的にはかなり重視されています。
実務上、最も重要な過失割合に関する基準は、「別冊判例タイムズ民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(通称「緑本」)です。
この緑本は、裁判だけではなく相手方保険会社との示談交渉段階でも、過失割合を定めるにあたっての基準となっており、裁判官や弁護士、保険会社等の交通事故案件に携わる実務家が最初に参照する基準です。
緑本の基準にしたがって実務が運用されている以上、同基準と異なる独自の見解に基づく過失割合の主張が通る可能性は高くないと考えてください。
緑本の基準の概略を説明しますと、まず事故類型を①歩行者と四輪車・単車との事故、②四輪車同士の事故、③単車と四輪車の事故、④自転車と四輪車・単車との事故、⑤高速道路上の事故に大きく分類した上で、さらに細かく様々な態様の事故に分類し、それぞれ基本的過失割合と修正要素を設定しています。
実際の交通事故に緑本の基準を適用して過失割合を認定する作業は、まず、発生した事故の態様・状況が基準のどの類型に該当するかを検討して基本的過失割合を確定した上で、次に類型ごとに規定されている修正要素に該当する事情がないかを検討し、最後に基本的過失割合に修正要素を加味して当該事故の最終的な過失割合を認定するという流れで行われます。
過失割合を認定する上では、事故当時の諸事情が基準に定められた修正要素に該当するか、該当するとしてそのまま修正要素を適用していいかを判断する作業が重要となります。
ですので、単にどの事故類型に該当するかを判断すればよいというわけではなく、事故の状況を細かく分析して幅広く証拠を収集する必要があります。
もっとも、実際の事故態様・状況は千差万別であり、緑本の基準が全ての事故をカバーしているわけではありません。
基準に載っていない態様の事故の場合には、態様が類似する事故の基準を参考に、諸般の事情を考慮して個別具体的に妥当な過失割合を認定することになります。