遺産相続 特別受益

2021/06/09
遺産相続 特別受益

特別受益

共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいた場合に、相続に際して、この相続人が他の相続人と同じ相続分を受けるとすれば、不公平になります。そこで、民法は、共同相続人間の公平を図ることを目的に、特別な受益(贈与)を相続分の前渡しとみて、計算上贈与を相続財産に持戻して(加算して)相続分を算定することにしています(民法903条)。

■具体的相続分の計算方法

  • みなし相続財産
  • 各相続人の相続分
  • 特別受益による相続分の算定の例被相続人Aには、相続人として配偶者であるB、子であるC、D、Eの合計4人がいたとします。そして、被相続人死亡時においては、相続財産は、預貯金が4000万円存在しておりました。しかし、被相続人Aは、生前、相続人のうちの一部に対して、具体的にはBに1500万円、Cに500万円を贈与していました。これらの生前贈与は全額特別受益にあたるとして、各相続人の具体的な相続分はいくらになるでしょうか?
  • 関係図

みなし相続財産=4000万円+1500万円+500万円=6000万円

被相続人が遺した預貯金3000万円の分配

  1. <Bについて> 6000万円×2分の1-1500万円=1500万円
  2. <Cについて> 6000万円×6分の1-500万円=500万円
  3. <Dについて> 6000万円×6分の1=1000万円
  4. <Eについて> 6000万円×6分の1=1000万円
特別受益の種類
  1. 遺贈遺贈は、目的にかかわりなく、包括遺贈も特別遺贈も全て特別受益に当たると解されます。なお、「相続させる」旨の遺言があった場合も遺贈と同様に、特別受益に当たると解されます。
  2. 生前贈与学 費①高等学校の入学金や授業料等
     高等学校の入学金や授業料等は、被相続人が支出した金額や被相続人の資産、社会的地位、他の相続人との比較などを考慮して、特別受益といえるか否かを判断することになります。一般論として、高等学校への進学率が低かった時代には、特別な支出であったものが、進学率が高くなり、特別な支出ではなくなってきています。②高等学校卒業後の学費
     高等学校卒業後の教育(大学、留学、専門学校等)の学費についても、高等学校の学費と同様、被相続人が支出した金額や被相続人の資産、社会的地位、他の相続人との比較などを考慮して、特別受益といえるか否かを判断することになります。一般論として、とくに現代においては、親の子に対する扶養義務の一環としての支出とみることができる場合も増えていると思われますが、例えば私立の医学部の学費のように、特別に高額であれば、特別受益といえることが多いと思われます。
    もっとも、親の子に対する扶養の範囲内とは評価できないような支出であっても、相続人全員が大学教育を受け、ほぼ同額の学費の負担をしてもらっている場合には、特別受益として考慮しないこととなると思われます。婚姻又は養子縁組のための贈与①結婚式の費用、結納金
     被相続人の資産・収入に照らし社会的に相当な金額であれば、特別受益に当たらないと解されます。②相続人全員へ同程度の生前贈与がなされている場合
     被相続人から相続人全員に、同程度の生前贈与がなされている場合には、被相続人の合理的意思解釈として、持戻し免除の黙示の意思表示があったものと解されることになります。
特別受益者の範囲

特別受益を受けた者として持戻しをする必要がある者は、原則として、共同相続人に限られると解されています。もっとも、以下のようなことが実務上問題となることがありますので、注意する必要があります。

  • 相続人の配偶者や子の得た特別受益の例 被相続人Aは、配偶者を先に無くしており、子が2人いた(BとCがいた)。Aは、晩年、子のうちの一人であるB家族(B、Bの配偶者D、乙の子E(Aからみれば孫))と同居していたことから、Dに対してその海外旅行費用、Eに対してその学費を生前贈与していた。Cの立場からすれば、DやEに対するAによる生前贈与は、Bに対する贈与と同様に、Bの特別受益として、BとCとの遺産分割において考慮されるべきであると主張したいところであるが、どのように考えるべきでしょうか?
  • 特別受益の例

【原則】
 被相続人Aが、生前にBの配偶者DやBの子であるEに対して、贈与をしていたとしても、これはAによるBに対する贈与ではないため、特別受益として持戻しの対象とはなりません。

【例外】
 もっとも、上記のような例であっても、実際にはAによるBに対する贈与であるのに、名義のみ形式的に配偶者であるDや子であるEとしたにすぎないといえる場合には、DやEに対する生前贈与は特別受益に該当し、持ち戻しの対象となると解されます。

相続人のうちの一人の配偶者に対してなされた生前贈与について、特別受益に当たると判断した審判例

被相続人から共同相続人の一人の配偶者に対してなされた農地の生前贈与について、共同相続人に対する特別受益にあたると判断した審判例があります(福島家庭裁判所白河支部昭和55年5月24日審判)。被代襲者に対する特別受益を代襲相続人との関係で考慮するか 当然のことかもしれませんが、代襲相続の場合に、被代襲者に対しての生前贈与があれば、代襲相続人の特別受益として考慮されることになります。包括受遺者が生前贈与を受けていた場合・包括受遺者が共同相続人以外の第三者の場合
包括受遺者が共同相続人以外の第三者である場合、被相続人の通常の意思解釈としては、持戻しを予定していないと考えられるから、特別受益として持戻し義務は否定されると解されています。・包括受遺者が共同相続人の場合
包括受遺者が共同相続人である場合、包括遺贈ではなく特定遺贈を受けている場合と異なる扱いをする理由はないことから、持戻し義務が肯定されると解されています。

特別受益の評価基準時

相続人に対する特別受益がある場合、これまで述べてきたように、相続開始時の遺産額に、特別受益に当たる生前贈与の金額を持ち戻して「みなし相続財産」を確定し、各相続人の相続開始時の相続分を算定することになります。

それでは、この特別受益に当たる生前贈与の金額を持ち戻すにあたって、その生前前贈与をいくらとして評価するのか、というと「相続開始時」とされています。

具体的な事例で考えると以下のようになります。

  • 特別受益による評価基準の例被相続人Aは、平成25年1月に死亡したが、妻は先に死亡しており、相続人としては子が3人いた(長男B、次男C、三男Dとする)。Aは、生前は会社を経営しており(経営していた会社をX社とする。AはX社の株式を当初は100%保有していた)、昭和30年から10年間かけて、毎年X社の株式を10%ずつ長男Bに贈与していた(長男Bは特別受益としてX社の株式を生前贈与されている)。一方、Aは相続開始時に財産として、預貯金5000万円を保有していた。なお、Aは遺言を残していなかったとします。
  • 評価基準の例

この事例で考えると、次男Cもしくは三男Dの立場に立ってみるとわかりやすいと思いますが、まず相続開始時に存在する5000万円に加えて、特別受益にあたるX社株式の評価額を長男Bが持ち戻して計算した「みなし相続財産」を3分の1ずつの法定相続分に従って分けるという考え方をすることになります。その際に、長男Bが持ち戻すことになるX社の株式の評価基準時は、いつになるでしょうか?X社の株式は、昭和30年から10年間かけて贈与されていることから、贈与された10回の時点ごとに評価して合計するのでしょうか?それとも、Aが死亡した平成25年1月時点で評価するのでしょうか?この評価時点は、「相続開始時」とされていますので、基本的にAが死亡した平成25年1月時点で評価するということになります。この例で考えると、特別受益の評価基準時をどう考えるかによって、具体的な遺産分割の内容に大きな違いが出てくることがお分かりいただけると思います。

以上のように、特別受益の評価基準時は、「相続開始時」といわれています。もっとも、以下のような場合にはどう考えるべきでしょうか?1.受贈者の行為によって受贈財産が滅失又は価格の増減があった場合 例えば、相続開始の10年前に、時価2000万円の居宅の贈与を受けた者(特別受益を受けた受贈者)が、失火によりそれを焼失させてしまった場合には、同居宅が贈与を受けたときの状態のままであるとみなし、相続開始時の価値が1000万であると評価されれば、当該受贈財産は1000万円の価額とされます。すなわち、相続開始時、なお贈与された居宅が存在したものとみなして算定されるのです。また、先述の例で考えると、被相続人であるAから株式の贈与を受けた長男Bが、その才覚を発揮し、Aが亡くなるまでの間に(相続開始時までに)、X社の業績を飛躍的に向上させ、X社の株式の価値を10倍にも100倍にもしたとしたら、X社株式の贈与を受けた時の状態のままであるとみなして、相続開始時の株式の評価をするのでしょうか?果たしてそんなことがそもそも可能でしょうか?2.受贈者の行為によらずして受贈財産が滅失した場合又は価格の増減があった場合 例えば、相続開始時の10年前に相続人の一人が被相続人から生前贈与を受けた建物が、その生前贈与の直後に、大地震(不可抗力。贈与を受けた者の責任が何もないことを前提するということ。)によって倒壊した場合には、生前贈与を受けた者は、何ら贈与を受けなかったものとみなされ、特別受益は考慮されないことになります。この建物が大地震により(不可抗力)半壊して価値が減少した場合には、半壊状態を前提として建物を相続開始時を基準として評価することになります。もっとも、受贈者の責任がなく建物が滅失した場合であっても、受贈者が通常の使用をして使用収益の利益を受け、自然に朽ちてしまったような場合には、受贈者が使用収益をした利益を受けた範囲において特別受益と評価されることになります。受贈者の行為は何も介在しない例として、不動産の価格変動によって、特別受益を受けた不動産の価格が増減した場合には、相続開始時を基準に価格を評価することになります。

特別受益となるか争いになることが多いケース

1.生命保険の受取人が、共同相続人のうちの一人が指定されている場合

  •  例えば、被相続人Aには、配偶者であるBと子C、Dの3人の相続人がいた。被相続人Aには1000万円の預貯金の相続財産があったが、子Cが死亡保険金1000万円の生命保険の受取人になっていた場合に、子Cが受け取る生命保険金は、特別受益といえるのでしょうか?
     まず、死亡生命保険金の受取は、原則として特別受益になりません。
     しかし、最高裁平成16年10月29日判決においては、例外的に生命保険金を特別受益に準じて持ち戻しの対象とする余地があるという判断をしています。
     遺産分割手続きにおける生命保険金の取扱いについて
  • 特別受益となるか争いの例

2.遺産である土地を被相続人の生前に共同相続人のうちの一人が無償で使用していた場合 例えば、被相続人所有の土地に、相続人のうちの一人が自宅を建て、居住していたが、建物所有者は被相続人に対して賃料等の支払いはしていない場合、「土地の無償使用」については特別受益とする余地があるものの、建物を所有している者が当該土地を取得する場合、「遺産としての土地の評価額が更地価格より減価する分」と差引ゼロとする考え方を採用することも多いようです。

特別受益の評価における貨幣価値の変動

金銭の贈与に関する特別受益の評価においては、貨幣価値の変動が考慮されます。といいますのも、昭和20年に300万が贈与された場合と平成25年に300万が贈与された場合とでは、同じ300万円であっても購買力に著しい差があるためです。金銭の実質的価値は購買力によって計られるものですから、金銭の贈与に関する特別受益の評価においては、貨幣価値の変動を考慮すべきであるといえます。

特別受益の確定方法(手続)

特別受益の有無やその価額について当事者間に争いがある場合、どのようにして特別受益の有無や価格について確定するのでしょうか?

結論としては、家庭裁判所は、遺産分割に関する審判で特別受益の有無や価額を判断します。

一方、特別受益財産であることを確認する訴えを提起しても、不適法却下されてしまいます。

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