遺産相続 特別受益と遺留分減殺請求の関係について

2021/06/09
遺産相続 特別受益と遺留分減殺請求の関係について

特別受益と遺留分減殺請求の関係について

共同相続人の中に被相続人の生前に多額の贈与を受けた者がいる場合、被相続人が他の相続人に多くの財産を相続させる遺言をすることで相続人間の均衡を図ろうとすることは珍しくありません。

このような場合、生前に贈与を受けていた相続人にも遺留分は認められるでしょうか。特別受益と遺留分減殺請求との関係をどのように考えるかが問題になります。

特別受益と遺留分減殺請求との関係

相続人の中に特別受益を受けた者がいる場合、遺留分はどのように計算すればいいのでしょうか。

贈与は、原則として相続開始前の1年間にしたものに限り、遺留分の算定の基礎に算入され、例外的に当事者双方が遺留分権利者を害することを知って贈与した場合には、1年より前のものも算入されます(民法1030条)。

しかし、民法は、特別受益に関する903条の規定を遺留分について準用すると定めています(民法1044条)。

したがって、贈与が特別受益に当たる場合には、贈与の時期や当事者の内心にかかわらず、

① 被相続人が相続開始時に有していた財産に特別受益の額を加算したものを相続財産とみなして遺留分を計算し、特別受益の額を差し引いた額をその者の遺留分とする。

② 特別受益の額が、①の方法で算出された遺留分と等しいか、超える場合には、遺留分を受け取ることができない。

ということになります。

被相続人が持戻免除の意思表示をしている場合

被相続人が特別受益の持戻免除の意思表示をしていた場合、特別受益は遺留分算定の基礎に算入されるでしょうか。

この点について、学説上、相続開始前の1年間に贈与が行われたときまたは当事者双方に遺留分権利者を侵害することを知っていたときに限って算入するとする否定説(不算入説)と、持戻免除の意思表示があっても参入するとする肯定説(算入説)との対立がありました。

しかし近年、最高裁は、被相続人が持戻し免除の意思表示をしていた場合であっても、遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるとしたうえで、持戻し免除の意思表示は遺留分を侵害する限度で失効し、当該贈与に係る財産の価額は、上記の限度で、遺留分権利者である相続人の相続分に加算され、当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当と判示しました(最高裁判決 平成24・1・26)。

したがって、実務上は持戻免除の意思表示があっても遺留分算定の基礎に算入されるということになります。

特別受益と遺留分減殺の対象

次に、遺留分算定の基礎に算入される贈与は、制限なく遺留分減殺の対象になるかという問題があります。

遺留分減殺請求について、民法は次のように規定しています。

1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

この規定からは、1030条に規定する贈与(相続開始前の1年間に贈与が行われたときまたは当事者双方に遺留分権利者を侵害することを知っていたとき)の限度で減殺の対象になるという解釈も成り立ちます。

しかし、最高裁は、「民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。」と判断しました(最高裁判決 平成10・3・24)。

1030条の要件を満たすことが必要とすると、遺留分は侵害されているのに、贈与を減殺できないため結局遺留分を確保できない事態が生じてしまい、遺留分という制度を設けた趣旨を没却することになるというのが、上記判断の理由と考えられます。

したがって、遺留分算定の基礎に算入される贈与は、原則として遺留分減殺の対象になり、「特段の事情」がある場合に限って対象にならない可能性があるということになります。

なお、どのような場合に「特段の事情」があると認められるかについては、最高裁は具体的には述べていないため、判例の集積を待たなければなりません。

「特段の事情」があると認めた裁判例はそれほど多くないようですが、たとえば次のようなものがあります。

被相続人から相続人への借地権の贈与が昭和62年にされたものであり、相続開始時まで20年余という長期の期間が経過していること、贈与後にバブル経済が崩壊し、土地の更地価額は、贈与時に9000万円であったものが平成21年の相続開始時には4109万4799円に、借地権価額も贈与時が5400万円であったものが、相続開始時には2465万6879円(更地価格の6割)にそれぞれ減少していること、そのため、賃料収入も予期に反して思うに得られず、被告自身も高齢となって安定的な収入を見込めないことといった事情の下では、本件借地権の贈与の減殺請求を認めることは相続人である被告に酷であるなどの特段の事情があるというべきであるとした
(東京地裁判決 平成25・9・20)

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