逮捕されたらどうする?~それに続く勾留への対処も含めてどのような弁護が可能か~
逮捕されるまでの流れ
被疑者(いわゆる起訴される前の容疑者のこと)を逮捕するには、現行犯逮捕等の例外を除いて、逮捕状が必要となります。
この逮捕状は、警察官が発行するものではなく、裁判官が出すものです。そして、裁判官は逮捕状を出すか否かを決めるにあたっては、以下の要件があるのか否かを検討します。
- ① 逮捕の理由(被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること。すなわち、被疑者が犯罪を犯したとある程度疑う理由があること)
- ② 逮捕の必要性(被疑者の年齢や境遇,犯罪の軽重や態様など諸般の事情に照らして,被疑者が逃亡するおそれがなく,かつ,罪証を隠滅するおそれがないなど明らかに逮捕の必要がないと認められる場合でないこと)
- ③ 一定の軽微犯罪について被疑者が住居不定か捜査機関の出頭要求(刑事訴訟法198条)に応じない
すなわち、逮捕される状況であるというのは、警察官が裁判官から逮捕状を出してもらうために、既に被疑者が疑わしいといえるための一定の証拠(当然のことながら、逮捕した後に、取り調べ等の本格的な捜査を行うため、逮捕状を取る段階では犯人かどうかの確証はない)を集めている状況なのです。
しかし、ここで重要なのは、被疑者が逮捕されたからといってその被疑者が本当に犯人なのか、被疑者が行った犯罪は逮捕罪名通りであるのかは、かなり疑わしいということです。
「容疑者が逮捕されたのだから犯人に違いない」という考えや、もしくは「犯人が捕まった」という表現は、冤罪事件を起こす危険をはらんでいるのです。
逮捕されてしまった場合にはまず状況の把握が重要
既に述べたように、親族や知人が逮捕されてしまった場合、それだけでその方が犯人かどうかわかりませんし、たとえ実際に犯罪を犯してしまった犯人であったとしても、何とか力になってあげたいとお考えになることと思います。
その場合に、「逮捕された方のために何をしてあげることができるか」という観点で考えた場合、その答えを見つけるためには、まずはとにもかくにも迅速にかつ正確に状況を把握する必要があります。
弁護士に相談しても、判明している状況からできる限りのアドバイスを受けることはできると思われますが、まずは被疑者のおかれている状況を把握しなければ、どうしたらいいのかはわからないのです。
当然のことながら、聞き取る内容や今後の見通しについて、弁護士の経験や知識には差があり、習熟した弁護士であればより適切なアドバイスをすることができる可能性は高いということになりますが、弁護士の経験や知識の量にかかわらず、まずは状況が分からなければ、適切なアドバイスなどしようがなく、適切な弁護方針など立てようもありません。
そこで、適切なアドバイスを行い、適切な弁護活動によって、逮捕された被疑者の権利を擁護するためには、被疑者のおかれている状況を把握するために、まずは「接見」といって、立ち会いなく話をする機会を設ける必要があるのです。
逮捕・勾留手続の流れ
勾留請求が認められないようにするための弁護活動
【勾留要件を満たさない旨の意見書の提出、担当検事や担当裁判官との面会】
既に述べた逮捕の要件と同様に、裁判官が勾留を認めるかどうかを判断するにあたっては、以下のように法律に定められた要件が満たされているのか否かを検討することになります。
【勾留の要件】
- ① 罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があること
- ② 以下の3つのうち1つでも当てはまるものがあること
- 1. 定まった住所を有しないとき(住所不定)(第1号)
- 2. 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(第2号)
- 3. 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき(第3号)
- ③ 勾留の必要性(1と2があると認められれば、3もあると認められるのが通常)
そこで、被疑者の身体拘束の早期解放を目指す弁護人としては、当該事件では、被疑者を勾留する要件を満たさない旨の意見書を提出し、担当検事や担当裁判官と面会する等して、担当検事には勾留請求をしないように、担当裁判官には勾留請求がなされてもそれを認めないように働きかけるという弁護活動を行うことになります。
そのような弁護活動において、重要になってくるのが、事件ごとに何がポイントとなり、勾留の要件を満たさないといえるのかということを明快にかつ熱意をもって伝えることです。
例えば、証人となりうる者に接触して不当な働きかけをするおそれは、抽象的なもので、具体的には証人となりうるものと被疑者には接点もなく、そのようなおそれはない等として、罪証隠滅のおそれを認めるべきではないという意見を出す等の活動が考えられます。
その場合、具体的な事件の内容、被疑者の属性などから、ポイントを絞り、説得力のある意見書を作成することができれば、身体拘束から被疑者を早期に開放できる可能性が出てきます。
勾留が認められた後に行うことができる弁護活動
既に述べたように、被疑者を早期に身体拘束から解放するためには、被疑者に対する勾留請求が裁判官によって認められる前に、被疑者のためにできる弁護活動を行い、できる限り、勾留が認められないに越したことはありません。
しかし、勾留請求が認められた場合であっても、以下のような弁護活動を行うことにより、身体拘束からの早期の開放を目指すことができます(当然のことながら、あらゆる場合に、以下に記載するすべての活動を行う必要があるということではありません)。
- (1) 勾留決定に対する準抗告裁判官が出す勾留決定に対しては、弁護人側(被疑者側)から準抗告という手続きで争うことができます。準抗告を行うと、勾留決定を出した裁判官だけでなく、担当の裁判官が3人で合議をして再度、勾留の要件を再検討することになります。弁護人の具体的な活動としては、準抗告申立書を作成して提出することになりますが、すでに述べた勾留請求が認められないようにするための弁護活動と同様に、勾留の要件が満たさないにもかかわらず勾留がなされた、もしくは勾留の要件を満たさなくなったことを示す事情を、被疑者らと打ち合わせながら収集し、的確かつ説得力のある論証をするということを行います。例えば、被害者と示談が成立し、詳細な自白調書が作成済みである場合に、「罪証隠滅のおそれがない」ことを具体的な事情を基に主張していくというような活動を行うのです。
- (2) 準抗告棄却に対する特別抗告勾留に対する準抗告が棄却された場合、その棄却決定に対して特別抗告を申し立てることができます。棄却決定が被疑者ないしは弁護人に到着し他日の翌日から5日以内に申立てなければならず、申立て理由も①憲法違反、②判例違反、に限られますが、事実誤認や法令違反については職権による破棄を求めることができます。
- (3) 勾留執行停止申請勾留が適法になされている場合であっても、勾留の執行停止によって被疑者の身柄を解放することができる場合があります。最高裁の判例によれば、被疑者や弁護人には、勾留の執行停止を求める権利はなく、被疑者や弁護人から請求があった場合は、裁判所による職権発動を促すものと理解されることとなります。この勾留執行停止は、裁判官が「適当と認めるとき」に認められるのですが、どのような場合に「適当と認められる」かというと、被疑者が病気の治療のために入院の必要があるとき、両親や配偶者などの近しい親族の危篤または死亡の場合、就職試験、学校の受験、などの場合に認められうるといわれています。もっとも、上記のような事情があっても、必ず認められるものではないことに注意が必要です。
逮捕・勾留された場合に制限されること
- (1) 面会時間接見時間は,平日の午前9時から11時半まで,午後1時から4時までと時間の制限があります。また,一日に先に面会者があると後の人が面会できない制限もあります。被疑者が否認したり共犯事件の場合には,検察官の請求により裁判官が接見禁止決定を出すことが少なくありません。その場合には,弁護人以外の人は被疑者と接見できません。面会には留置官が立ち会い、不審なやりとりをしていないかチェックします。また、面会室での会話内容は、留置官にメモを取られることがありますが、事件に関係のない日常会話などをメモすることはまずないようです。面会では、事件に関する会話が制限されることがあります。証拠の処分を指示するような会話や、事件に関する口裏合わせなど、罪証隠滅をうかがわせるようなやりとりが行われた場合には、面会が中断や終了になってしまう可能性がありますのでご注意ください。弁護士以外の面会時間は、15分程度と定められていることが多いです。
- (2) 差入れまず、差入れについては、弁護人以外は、土日はできません。また、受付時間が決まっており、午前は9時から11時半まで,午後は1時から午後4時までとなっております。何を差し入れしたらいいのか、これは本人に聞くのが一番ですが、下着などは差し入れを希望する方が多いです。下着類は、警察で貸してもらうことはできますが、使い古されたものを使うのに抵抗がある方も多いようです。また、食べ物は3食しっかり提供されるので差し入れを行う必要はありませんが、「自弁」といって自分のお金で、限られた中ではありますが、おかずやお菓子を購入することができたりします。そこで、現金の差し入れ希望もかなりあります。そして、留置所の中では、時間があることもあり、本や手紙を書くための便せんなども差し入れを希望する方も多いようです。
- (3) 手紙の授受まずは、逮捕・勾留されている者からの手紙の発信についてですが、勾留が決定された後、接見禁止の処分が付かなければ、外部に手紙を送ることができます。ただし、留置所においては、手紙の内容は検査されるので、場合によっては送れないこともあります。送れる手紙の本数については、1日につき1通(便箋7枚まで)までとされているところが多いようです。この点、逮捕・勾留されている者から、弁護人に送る手紙については、通数や枚数の制限はありません。被疑者と弁護人との間では、手紙のやり取りを通じて、裁判の準備等のために、できるだけ十分な意思疎通が必要となるためです。次に、逮捕・勾留されている者に対する手紙の送付、すなわち逮捕・勾留されている者からすれば手紙の受信についてですが、「逮捕」中は、手紙を受け取るには、担当刑事の許可が必要になります。一方、「勾留」後は、接見禁止の処分が付いていない限り、被疑者との面会時に手紙を差し入れることができます。また、手紙の内容は、留置の担当官によってチェックされ、不適切な内容が書かれている場合は、被疑者は受け取ることができないこともありますが、手紙を送付することもできます。その場合、留置所にいる被疑者あての手紙の宛先は、「◯◯警察署 “留置内” 甲野太郎」と記載するようです。
留置所と拘置所の違い
逮捕された直後や勾留期間の間は、警察署で留置されていますが、刑事裁判になった後(いわゆる起訴された後)は、拘置所に移送されることが多いです(ちなみに、起訴された段階で、それまで被疑者と呼ばれていたのが被告人と呼ばれることになります)。
ただし、起訴されるとすぐに警察署から拘置所に移送されるわけではなく、事案ごとに移送される時期はまちまちです。
面会を予定される場合には、拘置所に移送されているかどうか、まだ警察の留置所にいるのか、警察署に問い合わせをすると確実です。
なお、拘置所に移送されたことは、検察官から弁護人に対して書面で通知されますが、書類が届くまでにタイムラグがあるので、弁護人に依頼している場合であっても、弁護人に確認したから、その段階で移送されているのかどうか、わからないこともあります。