弁護人側の証拠収集と証拠提出
(1)事件現場もしくはその付近から収集する証拠
(例)事件現場の位置関係に関する写真
(例)事件現場付近の防犯カメラの撮影状況
(例)現場の目撃者の探索など
(2)関係者からの事情聴取
事件の関係者からは、捜査機関も事情聴取をし供述調書を作成しているのが通常ですが、意図的に供述調書が作成されていなかったり、供述の一部を意図的に除いて供述調書が作成されている可能性も否定できないことから、事件の関係者からの事情聴取により新たな事実が発覚することもあります。なお、弁護人から被告人に有利な証言を引き出すような不当な圧力をかけたと後に主張されないように慎重な対応も必要になるところです。
(3)専門家による意見書作成の依頼
刑事裁判においても、医学的、物理的、等各種科学的知見に基づいて、判断がなされることが多くあります。これらの専門的・科学的な知見については、専門家の意見を聴取して、意見書を作成してもらい、裁判に証拠提出できる状態にすることがとても重要になります。
(4)弁護士会照会、公務所等照会
弁護士会照会では、交通事故事犯の場合に信号機のサイクル周期を照会したり、様々な事案で病院にある診療録等の照会をすることが考えられます。また、弁護士会照会よりも強力で広範囲の資料収集が期待できるものとして、公務所等照会の手続があります。この手続は、弁護人側からすれば、裁判所がその必要性を認めて報告を求めなければ利用できないこととなっています(刑事訴訟法279条は「裁判所は、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」と規定しています。)
(5)弁護人による再現実験
被告人の主張と検察側の主張が、犯罪行為の具体的な態様において食い違っている場合、弁護人による再現実験を行って、検察側の主張の態様での犯行が困難であること等を立証することがあります。例えば、痴漢冤罪事件において、被告人と被害者の立ち位置や身長や持ち物を再現したうえで、検察側主張の具体的な痴漢行為に及ぶことが可能であるか等について再現実験をすることがあります。また、最近話題になった再審が決まった東住吉事件(民家の火災について、被告人が保険金詐取目的の殺人罪に問われた事件)においては、弁護側の火災の再現実験によって、被告人の自白通りの態様で犯行を行った場合(密閉された車庫で約7リットルのガソリンをまき、ライターで放火した場合)は、やけどを負ってしまう可能性が高く、自白通りの放火は実現可能性が低いとして、再審が認められています。
(6)捜査機関の押収物の確認
捜査段階で捜査機関が捜索・差し押さえ等で押収した物を押収物還付請求で還付してもらったり、押収されたまま裁判を行う場合でも、検察庁の保管されている証拠物を閲覧や写真撮影することで、それまで気付かなかったことに気付くことが多くあります。人間の想像力には限界があり、具体的な物を見ることで、それまで思い描いていた事件の内容を修正することができる場合があります。
(7)被疑者ノートの活用
被疑者段階から弁護人が就任している場合、被疑者の取り調べの状況を記録するため、弁護人が被疑者に「被疑者ノート」を差し入れて記載してもらうことがあります。この被疑者ノートは、捜査段階での取り調べ状況については捜査機関にしか証拠が残らないことが多いところ、弁護側においても取り調べ状況を証拠化できるという意義があります。