損害賠償命令申立をするメリット・デメリット
賠償命令申立てがなされた場合の審理の特徴について述べた際に、既にでてきてはいますが、損害賠償命令の申立をするメリットと考えられる点について挙げさせていただきます。
メリット
① 迅速な解決が期待できること
賠償命令の審理は、原則として4回以内に終わります。通常の民事裁判においては、そのような回数制限はなく、10回、20回と期日を重ねる裁判も珍しくありません。回数制限があるだけでも、迅速な手続きが実現するはずですが、加えて期日の間も、通常の民事裁判であれば、1ヶ月に1回くらいが通常ですが、それより短い期間で期日の指定が行われているのが実務で、迅速な解決が期待できます。
② 手数料が安い
賠償命令の申立手数料(収入印紙代)は、一律2,000円です。民事訴訟においては、手数料は、損害賠償請求の場合、請求金額に応じて決まってきます。例えば、100万円を請求する裁判を起こすのには、1万円の手数料が必要ですし、1000万円を請求する裁判を起こすには5万円、1億円を請求する裁判を起こすには32万円の手数料が必要です。すなわち、賠償命令の申立手数料は、通常の民事裁判の手数料よりもとても安価で、とくに損害賠償を求める金額が大きくなる場合には、手数料の差は大きくなり、賠償命令の申立をするメリットは大きくなります。
デメリット
① 損害賠償額等を確定するために複雑な争点がある場合には利用できない
賠償命令申立の審理においては、既に刑事事件を経ていますので、裁判官は事案の概要を把握しています。しかし、裁判官は、刑事責任の有無及び程度を判断するうえで必要な情報を持っているにすぎず、民事的な責任及び額等を判断するために必要な情報を持っているわけではありません。他方、賠償命令手続は、賠償責任を判断するうえで複雑な争点があったとしても、迅速に行われなければならず、複雑な争点がある場合には利用ができないもしくは不適切ということになります。
② 終局的な解決になる保障はないこと
通常の民事裁判や刑事裁判は、終局的な解決、簡単にいうとその手続で最終的な解決をしてしまう、ということを担保された手続です。しかし、賠償命令申立制度は、結果として出た賠償命令に異議があれば通常の民事訴訟に移行するのですから、終局的な解決になるという保障はなく、むしろ民事訴訟手続の前哨戦に過ぎないものとなってしまうおそれもあるのです。