営業秘密保護
営業秘密とは一般的に企業秘密といわれる企業内の情報の中でも特に重要な技術やノウハウなどの秘密情報を指します。
この重要な情報を「営業秘密」として適切に管理することにより不正競争防止法により法的に保護することができます。
企業にとって自社で培ったノウハウ、従業員の技術、取引先の顧客情報等は企業が存立、成長かつ発展していく上で非常に重要かつ大切な財産です。
ところが、従業員が退職した後に、その顧客情報やノウハウ、技術等を利用して同種の営業を始めたり、競業他社へ引き抜かれて、会社にとって有益な情報がライバル企業に漏洩してしまうことにもなりかねません。
しかし、退職後の従業員の競業行為については、法令に触れる場合があるものの、労働契約で当然に禁止されているわけではありません。
そこで、退職の際の元従業員の秘密保持義務、競業避止義務、それに違反した場合に退職金の返還を認める誓約書の効力、退職金の返還の有無等について解説いたします。
営業秘密の定義(不正競争防止法第2条6項)
- ① 秘密として管理されていること(秘密管理性)
- ② 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
- ③ 公然と知られていないこと(非公知性)
上記3つの要件を満たす技術上、営業上の情報である。とされています。
営業秘密になりうるものの具体例
- (1)顧客名簿
- (2)製造ノウハウ、設計図、製法
- (3)仕入先リスト
- (4)販売マニュアル
営業秘密を保護するために事業者がなすべきこと
契約による責任の明文化
秘密管理の体制整備および維持
営業秘密の不正使用が問題となった裁判例
【勝訴した事例】墓地販売会社での事案(平成12年11月東京地裁)
営業秘密の社内管理状態
- 「暫定顧客情報(電話帳より抜粋)」「お客様情報」・・・管理者の管理する、施錠可能なロッカーへ保存。
- 「(予約)聖地使用契約書」「来山者名簿」・・・日常業務を行う事務室内の営業課長の机の引き出しの中に保管。
- 「加工図、パース」・・・上記事務室内書棚にファイルとして保管。
- 「墓石原価表」・・・上記事務室内の営業課長の机野中に保管。・新規採用社員に対して営業活動以外への使用禁止を徹底。
【判示】
上記の認定事実から秘密管理性が認められる
【勝訴した事例】かつら販売会社での事案(平成8年4月大阪地裁)
営業秘密の社内管理状態
顧客名簿の表紙に「マル秘」の印を押捺し、心斎橋店のカウンター内側の顧客から見えない場所に保管。
【判示】
男性用かつら販売業における顧客名簿自体の性質、原告の事業規模、従業員数(本店支店合計7名、心斎橋店は店長1名)に鑑み、原告顧客名簿に接するものに対して、これが営業秘密であると判断させるには十分な措置がなされているというべきであり、原告顧客名簿は秘密管理性が認められる。
【敗訴した事例】会計事務所での事案(平成11年9月東京地裁)
営業秘密の社内管理状態
- 「顧客先名簿」・・・無施錠の棚に保管。従業員の誰でも見ることが可能。秘密の表示、指導、アクセスについて人的時間的制限なし。
- 「顧問料金表」・・・経理課の書庫に入れて施錠していた。秘密の表示、指導、アクセスについて人的時間的制限なし。
- 「電子フロッピー」・・・無施錠の一般保管庫に入れて保管。秘密の表示、指導、アクセスについて人的時間的制限なし。
【判示】
上記の認定事実から、顧問先名簿、顧問料金表、電子フロッピー全てについて「従業員との関係で客観的に認識しうる程度に対外露出しないように管理していたとは認められない」として秘密管理性を認定せず
【勝訴した事例】人材派遣会社での事案(平成12年7月大阪地裁)
営業秘密の社内管理状態
本件情報の記載された書類が綴られたファイルは、事務所のキャビネットに保管され営業時間中であれば誰でも見ることが出来た。社員は入社時に、原告および取引先の機密を保持する旨の誓約書を提出しており、就業規則にも原告の機密を保持する旨の規定があった。特段の機密事項である旨の表示はされていなかった。
【判示】
上記の認定事実から秘密管理性に欠けるとして判示。秘密として管理することを要件としてもうけたのは、企業が営業活動を遂行する上で獲得し、社員が接することになる情報には極めて多くのものがある中で、そのうちどれが法的に保護される営業秘密であるか客観的に認識できるようにしておく趣旨である。宣誓書や就業規則の記載を持って、本件情報が秘密として管理されていたというためには、性質上「機密」に該当するというだけでは足りず、原告が現実に、本件が「機密」にあたることを客観的に認識できるように管理しておく必要があった。
当事務所が行う支援
- (1)社内体制の整備
- (2)秘密保持契約の締結
- (3)営業秘密の不正使用が発覚した段階での対応策の提示