個人再生(カーローン引き揚げ)

2021/06/13
個人再生(カーローン引き揚げ)

個人再生では、自己破産と異なり、お持ちの資産を手放す必要はなく、既にローンの支払いを終えている自動車が引き揚げられることはありません。

しかし、自動車ローンを組んでいてまだローンが残っている自動車は、原則としてローン会社に引き揚げがなされますので、自動車を維持することが困難です。

今回は、自動車ローンの仕組みや個人再生におけるその取り扱い、自動車を維持する方法について解説したいと思います。

自動車ローンの仕組み

自動車ローンには、自動車販売会社が提携するローン会社(信販会社等)のローンや銀行や信用金庫で組むマイカーローンなどがあります。

まず、信販会社でローンを組む場合、ローンの返済が滞ったときに備えて、ローン完済までの間、自動車の所有権をローン会社に残しておくことがほとんどです。

これを所有権留保と言います。

そして、ローンの支払いが滞ったときや支払いができなくなったときに、ローン会社が所有権に基づいて自動車を引き揚げ、売却することで資金を回収します。

個人再生の申立てを行う場合も、返済が滞った場合に当たりますので、ローン会社が自動車を引き揚げることになります。

しかし、契約上、ローン会社が所有権留保を付けていなければ、自動車の引き揚げはなされません。

また、銀行や信用金庫で組むマイカーローンやフリーローンの場合、所有権留保が付かないことがありますが、契約書上、自動車に担保権の設定がなされている場合もありますので、注意が必要です。

したがって、ローンが残っているけれど所有権留保や担保権の設定がなされていない自動車は引き揚げられず、所有権留保や担保権設定がなされている自動車は引き揚げられると考えていただいていいかと思います。

具体的には、車検証の所有者の名義が本人(購入者)で、軽自動車以外の場合には引き揚げを拒否できると考えられます。

なお、軽自動車の場合は、所有権を第三者に対抗する要件が「登録」ではなく「引き渡し」となっており、「持っている人が正当な所有者」と判断されます。

つまり、車検証上の名義が本人(購入者)であっても、所有権留保特約があれば、ローン会社は所有権に基づき自動車を引き揚げることが可能です。

所有権留保がある場合の対処方法

個人再生の手続きにおいて、自動車ローンが残っていて、所有権留保がなされている場合には、この自動車ローンは別除権付き債権ということになります。

そのため、原則、個人再生をすると知ったローン会社(債権者)は、すぐに自動車を引き揚げてしまいます。ですので、所有権留保が付いている自動車については、原則返還しなければならないということになります。

ところで、ローン会社が自動車を引き揚げて優先的に貸金を回収するには、他の債権者に対して自動車の所有権があると主張できることが必要です。

そのために必要な条件のことを「対抗要件」と言います。

そして、ローン会社がこの対抗要件を持っている場合は、自動車を引き揚げて処分し、優先的に貸金を回収することができます。

原則として、普通自動車では車検証の所有者名義、軽自動車やバイクではその引き渡しが対抗要件です。

もっとも、軽自動車やバイクについては、契約書上ローン会社が対抗要件をもっていることがほとんどです。

なお、車検証の所有者が自動車販売会社(ディーラー)となっている場合、ローン会社が自動車所有権について対抗要件を備えていると言えるかどうかについては、契約次第となります。

ですので、契約の内容次第では、返還しなくてよい場合もあります。

自動車ローンの残った自動車を維持する方法

(1) ローンを完済する(第三者弁済)

個人再生をする場合、一部の債権者にだけ弁済することは、債権者平等の原則に反する「偏ぱ弁済」とみなされ、偏ぱ弁済をしてしまうと、その額を財産の総額に加えられることとなり、結果的に再生計画による弁済額が増額となってしまう可能性があります。

これを避けるためには、親族などの第三者にローンを完済してもらうという方法があります。

この方法であれば、偏ぱ弁済にはあたらないので、弁済額が増額となってしまうことはありませんが、その弁済原資が再生債務者の財産から拠出されているとなれば、個人再生の手続き上、問題となります(民事再生法85条1項違反)ので、第三者弁済を行うにあたっても慎重に対応する必要があります。

また、親族などの第三者にローンを引き継いでもらうという方法も考えられますが、この場合は、引き継いでもらう人にローン審査が通るような収入がないと難しい上、ローン会社の同意が必要です。

一定の条件を満たせば、ローンの引き継ぎが可能ということになります。ただし、この場合、今までと同じ条件でローンを引き継いでもらうことができるか否かについては、ローン会社と交渉することが必要です。

この点、ローン会社は一括での支払いを求めることが多く、あまり積極的に応じてもらえないのが実情です。

特に、自動車の換価価値が高い場合は、ローン会社にメリットがないため交渉が難しくなります。

ここでは、いかにローン会社にメリットがあるかということを説明して、今までと同じ条件でローンを引き継いで支払っていくことができるよううまく交渉を進めることが必要です。

なお、連帯保証人がいる場合は、連帯保証人に支払ってもらうという方法もありますが、新たに連帯保証人をたてるのは、上記のローンを引き継いでもらう方法と同じ問題が生じることとなります。

(2) 別除権協定を締結する

自動車に所有権留保が付いている場合でも、ローン会社との間で「別除権協定」を締結できた場合は、自動車を残すことができます。

この「別除権協定」とは、ローン会社との間でローンを支払うことを約束して、その代わりに自動車を引き揚げないようにしてもらう協定です。

ただし、前述のとおり、ローン会社だけに弁済を行うことは、個人再生の手続きにおいて債権者平等の原則に反しますので、別除権協定を締結するには裁判所の許可が必要です。

なお、別除権協定が認められるのは、自動車の継続使用を認めないと、再生債務者の収入がなくなって再生計画による弁済ができなくなり、かえって債権者の利益を害するようなケースに限られます。

具体的には、個人タクシーの運転手や個人で運送業を営んでいるような自分の自動車を直接仕事に使用しているような場合などで、単に通勤に必要だから、最寄りの公共交通機関遠くて買い物などの日常生活が不便になるから、というような理由では認められません。

この点、実務上は裁判所に別除権協定を認めてもらうことはかなりハードルが高いと言えます。上記のような、事業に不可欠であり、かつ認めないことで債権者の利益を害することになるような場合を除いては、難しいといえるでしょう。

まとめ

このように、個人再生を行う場合に、自動車ローンの残った自動車は原則としてローン会社に返還しなければならず、手元に残すことは非常にハードルが高いということになります。

ただし、契約の内容やローン会社との交渉などで継続して使用できる方法もあり、再生計画による弁済原資を確保するという観点から事業に不可欠であると認められれば、裁判所の許可を得て弁済協定を締結することもできます。

これらは、自動車のローンの契約内容や個別具体的な事情に応じてとるべき方法が異なり、それぞれ慎重に検討する必要がありますので、同じような状況でお悩みの方は一度弁護士にご相談されてください。

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