給与差押えを受けている状況で自己破産申立を検討している方へ
借金を返すことができず、給与の差押えを受けてしまうと、生活に多大な影響を与えることになります。
また、会社にも借金を返せていないことがバレてしまい立場が悪くなってしまいますし、差押えの金額の計算は複雑になので、会社も嫌がります。
そこで、このような事態になると、自己破産を検討することになります(むしろ、給与差押えという事態になる前に自己破産の申立てをする方がよりよいといえます)。では、自己破産申立をすると給与差押えはどうなるのでしょうか?
1.同時廃止事件と管財事件
自己破産の申立には、同時廃止事件と管財事件の2種類があります。
自己破産申立をするときに、このどちらを選択するかで、給与差押えがどうなるかが変わります。
そこで、まずは、同時廃止事件と管財事件の違いについて簡単に説明します。
自己破産手続きの流れには、下記の3つがあります。・管財事件(配当あり)①申立→②自己破産開始決定→③債権額の調査・債務者の財産の換価→④配当→⑤自己破産手続きの終了→⑥免責決定・管財事件(配当なし)①申立→②自己破産開始決定→③債権額の調査・債務者の財産の換価→④自己破産手続きの廃止→⑥免責決定・同時廃止事件①申立→②自己破産開始決定→③自己破産手続きの廃止→④免責決定
管財事件の場合、自己破産開始決定と同時に裁判所が、破産管財人(中立の弁護士)を選任し、債権額の調査や債務者の財産の換価、配当は破産管財人が行います。
管財事件では、予納金を準備する必要があります。
予納金の金額は、債権者の数や事案の複雑性などによって、各裁判所ごとに定められています。最低でも20万円くらいは必要です。
これに対して、換価する財産がないことが明らかな場合は、債権額の調査・債務者の財産の換価は省略され、自己破産開始決定と自己破産手続廃止決定は同時に出されます。
破産管財人は選任されません。これを同時廃止事件と呼びます。
自己破産手続きをする場合に、どちらの手続きを選ぶかについては、換価できるような財産がないことが明らかな場合には、同時廃止を選ぶことが多いですが、多少なりとも換価できる財産がある場合や事案が複雑な場合、事業をやっていたり、会社が自己破産する場合で、その会社の代表者だったりする場合、免責不許可事由があると思われる場合には、管財事件を選択するということになります。
2.自己破産申立をした場合には、給与の差押えは止まるの?
管財事件の場合
破産法第42条には、自己破産の申立をして、裁判所が破産手続開始決定をすると、すでに開始されている強制執行手続は効力を失うと定められています。
そこで、裁判所の破産手続開始決定をもって、給与の差押えは効力を失います。
実務上では、破産管財人が、強制執行を許可した裁判所に自己破産開始決定が出たことを上申することによって、給与の差押えが止まります。
同時廃止事件
破産法第249条第1項では、自己破産開始決定(同時廃止決定)がされた場合には、その後、免責決定が確定するまでの間、すでにされている強制執行は中止すると規定されています。
さらに、第2項では、免責決定が確定すると、強制執行はその効力を失うと規定されています。
そこで、同時廃止事件の場合は、自己破産手続開始決定(同時廃止決定)後に、強制執行を許可した裁判所に上申書を提出することで、給与の差押えは中止されます。
そして、その後、免責決定を受けると、給与の差押えは、効力を失います。
3.差し押さえられた給与は、自己破産申立をした後どうなるのか
管財事件の場合
・自己破産開始決定後の給与強制執行は効力を失いますので、給与は全額受け取れるようになります。・弁護士の受任通知発送後~自己破産開始決定までの給与自己破産手続きを依頼された弁護士が各債権者に受任通知を発送した時点で、すべての債権者が、債務者が支払不能になっていることを知ります。そこで、受任通知発送から自己破産開始決定までの間に特定の債権者が行った給与の差押えに関しては、管財人が否認権を行使し、取り戻しをすることがあります。自己破産手続きでは、債権者が平等に扱われるのが原則です。そのため、偏波行為に対して、管財人は否認することができるのです。偏波行為とは、債務者が債権者の一人にだけ多額の弁済をするような場合が典型例です。給与の差押えは、債務者の意思に基づくものではありませんが、破産法165条では、偏波行為が「執行行為によるとき」も否認することができることになっていますので、強制執行によって債権者が偏波弁済を受けた場合にも否認することができるようになっているのです。管財人が否認権を行使して取り戻した給与は、破産財団に組み入れられ、財団債権などの弁済に充てられますが、余剰は債権者に平等に配当されます。
同時廃止事件の場合
・自己破産廃止決定~免責決定確定までの間に差し押さえられた給与自己破産の開始及び廃止の決定が出た段階では、給与に対する強制執行は、中止されただけで効力が失われたわけではありません。そこで、免責決定が確定するまでの間、会社は、差押え額に該当する金額を自社でプールしておくか、供託します。そして、免責決定が確定すると、債務者は、差押えられていた金額を受け取ることができるようになります。・弁護士の受任通知発送後~自己破産開始決定までの給与管財事件と同様に、この間の給与差押えは、否認権の対象となるものです。そこで、多額の給与が差押えされた場合には、これを取り戻せば配当できる可能性がある場合には、同時廃止事件として申立をしていても、管財移行になることがあります。管財移行になるか否かは、この期間にどれくらいの給与が差し押さえられて債権者に払われたか、取り戻せる可能性はあるか等によって変わります。管財移行すると、予納金が必要になりますので、同時廃止の申立をする場合でも、管財移行の可能性については、あらかじめ検討しておく必要があります。
自己破産は、債務者にとっては、経済的再生のチャンスを与えてもらえる制度です。
そのため、最終的には給与の差押えの効力もなくなります。給与の差押えを受けている場合は、早めに自己破産申立を検討したほうがよいでしょう。