解雇無効訴訟

2019/12/29
解雇無効訴訟

解雇無効訴訟

労働者が会社の行った解雇の無効を争う場合、従業員の地位にあることの確認を求める訴訟を提起することになります。その場合、上記地位確認訴訟において、会社が解雇をした時から、当該従業員が復職できるまでの間の賃金を併せて請求することがほとんどです。なお、このような訴訟の前に、訴訟が終わるまでの間、従業員が生活していくための賃金の仮払いを求めて、いわゆる仮処分と呼ばれるもので、「地位保全及び賃金仮払い仮処分命令申立」という申し立てをされることもあります。
 
また、訴訟における解決よりも早期の解決を目指して、労働審判手続きにおいて、解雇無効の主張に基づく、「従業員の地位にあることの確認請求」と「賃金支払い請求」を行う事例もあります。
 
このような解雇無効の主張に基づく請求(法的措置)に対して、どのように対処していくべきかについては、事件の見通しや会社の人的・金銭的事情等を考慮して決定することになりますが、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
 

解雇の要件

まずは、解雇が有効と認められる場合と無効とされる場合を区別する、いわゆる解雇の要件を紹介します。以下の通り、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇に分けて検討してみます。
 

解雇の要件

普通解雇 ① 解雇(もしくは解雇予告)の意思表示をしたこと
② 30日以上の賃金を支払ったこと、もしくは上記解雇(もしくは解雇予告)の意思表示から30日が経過したこと
③ 解雇が客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること(労働契約法16条)
懲戒解雇 ① 解雇(もしくは解雇予告)の意思表示をしたこと
② 30日以上の賃金を支払ったこと、もしくは上記解雇(もしくは解雇予告)の意思表示から30日が経過したこと
③ 解雇が客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること(労働契約法16条)
④ 就業規則に解雇に関する定めがあること
⑤ ③の就業規則に定める事由が存在すること
⑥ 解雇が⑤を理由とすること
整理解雇 ① 人員削減の必要性があること
② 解雇回避の努力をしたこと
③ 被解雇者選定の合理性が認められること
④ 解雇に至る手続きに妥当性が認められること

 

解雇無効訴訟における判断の帰趨

上記のような解雇の要件を前提として、解雇の有効性が争いになる場合(労働者が解雇無効を主張する場合)における裁判所の判断の帰趨についてご説明します。
 
まず、解雇の有効性を考えるうえで最も重要な解雇権濫用法理について簡単に説明しますと、解雇権濫用法理とは、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる」(最高裁昭和50年4月25日判決、日本食塩製造事件。労働契約法第16条「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」)というものです。
 
次に、個別具体的な解雇が上記解雇権濫用法理に照らして、有効とされるか無効とされるかは、具体的な事情に基づいて判断されることになりますが、以下では、解雇の有効性が問題となった裁判例をいくつか紹介します。
 

解雇の有効性を肯定した裁判例

東京地裁平成9年5月19日判決 住友不動産ホーム事件
注文住宅の建築請負会社の営業社員が、解雇前1年11か月間全く売上げがなく、また、無断欠勤をしたり、外出先の報告をすることなく外出したり、出勤簿に予め1週間ずつまとめて押印したり、週に1度の営業会議に出席しなくなり、上司から注意されても反省しなかった等したため、就業規則上、「業務上やむを得ない事由があるとき」等に該当するものとしてなされた解雇を有効と判断しています。

 

東京高裁昭和59年3月30日判決 フォード自動車(日本)事件
「控訴人(労働者)としては提供される職位が人事本部長でなく一般の人事課員であったならば入社する意思はなく、被控訴人(会社)としても控訴人を人事本部長以外の地位・職務では採用する意思がなかった」として、人事本部長としての能力不足及び適格性の欠如を理由とする解雇を有効と認めています。

 

解雇無効の判断をした裁判例

東京地裁平成11年10月15日決定(地位保全等仮処分命令申立事件) セガ・エンタープライゼス事件
「債権者(労働者)について、検討するに、確かにすでに認定したとおり、平均的な水準に達しているとはいえないし、債務者の従業員の中で下位10%未満の考課順位ではある。しかし、すでに述べたように右人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。債務者(会社)は、債権者に退職を勧告したのと同時期に、やはり考課順位の低かった者の中から債権者を除き55名に対し退職勧告をし、55名はこれに応じている(前記一4(三))。このように相対評価を前提として、一定割合の従業員に対する退職勧告を毎年繰り返すとすれば、債務者の従業員の水準が全体として向上することは明らかであるものの、相対的に10%未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえないのである。したがって、従業員全体の水準が向上しても、債務者は、毎年一定割合の従業員を解雇することが可能となる。しかし、就業規則一九条一項二号にいう「労働能率が劣り、向上の見込みがない」というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でない。すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は、極めて限定的に解されなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはてきないからである。」と述べている。

 

最高裁昭和52年1月31日判決 高知放送事件
「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。
本件においては、被上告人(労働者)の起こした第一、第二事故は、定時放送を使命とする上告会社の対外的信用を著しく失墜するものであり、また、被上告人が寝過しという同一態様に基づき特に二週間内に二度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、更に、第二事故直後においては卒直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、被上告人に非がなしということはできないが、他面、原審が確定した事実によれば、本件事故は、いずれも被上告人の寝過しという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではない。 等の事実があるというのであって、右のような事情のもとにおいて、被上告人に対し解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。
したがって、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効とした原審の判断は、結局、正当と認められる。」と判示している。

 

弁護士からのアドバイス

上記裁判例を総じていえば、勤務態度や成績不良を理由とする解雇が有効であると認められるには、著しい勤務態度や成績不良が要求されるといえるでしょう。
 
また、上記以外にも多くの裁判例が事例として存在していますが、ここではその多くを紹介することは不可能ですので、具体的な事案でお悩みの方は、解雇という結論を言い渡す前に、是非一度、当法律事務所の弁護士にご相談ください。
 

解雇無効が認められた場合の使用者側の損害

上記のように、裁判において、解雇の有効性を基礎づける「解雇が客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること(労働契約法16条)」を裁判所に認めてもらうことは、相当程度高いハードルを越えなければならないという認識を持つべきです。
 
そして、当事務所の労務・人事のトラブルのページの冒頭の<労務・人事のトラブルへの弁護士の関与>の項目の「1 労働問題に関する事前予防策の重要性」や「2 労働問題が現実化した場合のリスク」の【例①】で述べさせて頂いたように、解雇無効を前提とした仮処分や訴訟を長期で戦い、会社側が敗訴した場合、会社側はかなり大きな金銭的な負担を強いられるリスクがあります(上記の【例①】では、解雇した従業員の年収の1.5倍以上の金銭的負担を強いられることになります)。
 

弁護士からのアドバイス

解雇無効の主張に基づく請求(法的措置)に対しては、このようなリスクを認識し、あくまで冷静に、事件の見通しや会社の人的・金銭的事情等を考慮して、徹底的に戦い抜くのか、それとも早期解決を目指すのかを判断すべきです。そこで、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求について

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の事例

安全配慮義務とは、例えば、使用者と雇用契約を締結している労働者がその生命身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、使用者が必要な配慮をすべき義務(労働契約法5条)であり、使用者が労働契約に基づく付随義務として信義則上負う義務であると解されています(最高裁昭和50年2月25日判決参照)。
このような義務に違反した結果、労働者が怪我をしたり、病気になる等した場合に、使用者にはその損害を賠償する義務を負うことになります。
 
そして、その責任の範囲は、近年広く認められてきており、例えば、「長時間勤務による過労死」「建設現場における事故」「勤務中の自動車運転時の交通事故」「長時間労働、業務による強い心理的負荷による精神疾患」「化学物質の影響による職業病」等の事例で、使用者の労働者に対する安全配慮義務違反が問われています。
 
使用者が負う安全配慮義務の内容
 
使用者が負う安全配慮義務の内容としては、上で述べた通りのことが判例で述べられておりますが、具体的な場面において、使用者が負う安全配慮義務の内容について、ご説明します。
 
このうち、物的環境については、

  • ⅰ 労務提供の場所に保安施設・安全施設を設ける義務
  • ⅱ 労務提供の道具・手段として、安全なものを選択する義務
  • ⅲ 機械等に安全装置を設置する義務
  • ⅳ 労務提供者に保安上必要な装備をさせる義務等

があるといわれています。
 
また、人的組織については、

  • ⅰ 労務提供の場所に安全監視員等の人員を配置する義務
  • ⅱ 安全教育を徹底する義務
  • ⅲ 事故・職業病・疾病後に適切な救済措置を講じ、配置換えをし、治療を受けさせる義務
  • ⅳ 事故原因となりうる道具・手段につき、適任の人員を配置する義務等

があるといわれています。
 
例えば、福岡高裁平成19年10月25日判決(判タ1273号189頁)は、労働者が従前から健康を害していたり、鬱病にり患していることを使用者が認識していた又は容易に認識し得た場合、これを前提とした安全配慮義務を負う旨判示しています。
 

労災保険給付と使用者が安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の関係

まず、労災事故に被災した労働者は、労災保険給付を受けることができます。
それにより、労働者の損害の一部が填補されることになります。
 
しかし、労災保険給付では、カバーできない損害については、使用者の側に安全配慮義務違反が存在すれば、労働者から使用者に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求がなされることになります。
具体的には、労災保険給付でカバーできない損害として、項目的には、逸失利益の不足分、慰謝料、弁護士費用相当損害金、等の請求が考えられます。

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