消滅時効について
(1)一般的な消滅時効
一般の民事債権の消滅時効は、その権利を行使することができるときから10年です(民法167条1項)。
個人的な金銭の貸し借りなどによる債権の消滅時効期間は10年となります。
一般の商事債権の消滅時効は、5年です(商法522条本文)。
商事債権とは、商行為によって生じた債権のことをいい、商取引の迅速化の要請から消滅時効は民事債権に比べて短くなっています。
(2)短期消滅時効
(1)の一般的な消滅時効の例外として、以下のとおり短期の消滅時効が規定されており、債権者としては注意が必要です。
a. 5年の消滅時効(民法169条)
定期給付債権
→例えば、マンション管理組合が組合員である区分所有者に対して有する管理費及び特別修繕費に掛かる債権は定期給付債権として5年の消滅時効期間となります(最判平成16年4月23日)。
b. 3年の消滅時効(同170条、同171条、709条)
- (ア)医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
- (イ)工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
- (ウ)弁護士又は弁護士法人、公証人が職務に関して受け取った書類についての責任
- (エ)不法行為に基づく損害賠償請求権
→例えば、交通事故にあって、怪我をしたり車が故障したりした場合、相手に対して請求する治療費や車の修理代等の損害賠償請求権は、加害者と損害を知った時から3年で消滅時効にかかります。
c. 2年の消滅時効(同172条、同173条)
- (ア)弁護士又は弁護士法人、公証人の職務に関する債権
- (イ)生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に掛かる債権
- →売掛代金債権は「商品の代価」です2年の消滅時効にかかります。また、「産物」には電気も含まれますので、電気料金は2年の消滅時効にかかります。
- (ウ)自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
- (エ)学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
d. 1年の消滅時効(同174条、1042条)
- (ア)月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料にかかる債権
- →ただし、労働基準法の適用を受ける賃金の請求権は2年間に延長されています。
- (イ)自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に掛かる債権
- (ウ)運送賃に掛かる債権
- →運賃を想定できませんが、タクシーやバスの運賃についても1年間の消滅時効にかかります。
- (エ)旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に掛かる債権
- (オ)動産の損料に掛かる債権
- →レンタルDVDの料金及び延滞料金は1年の消滅時効にかかります。
- (カ)遺留分減殺請求権
(3)確定判決で認められた債権の消滅時効
確定判決によって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は一律で10年となります。
裁判上の和解や、調停等確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についてもその消滅時効は10年となります(民法174条の2第1項)。
(4)民法改正について
平成27年3月31日に、民法の改正案が国会に提出されました。
現時点(平成28年8月)で未だ同法案は成立しておらず、法案成立後施行されるまで数年かかると思われますが、その内容についてご紹介しておきます。
時効に関する改正案のポイントは以下のとおりです。
- a. 5年に短縮+職業別の短期消滅時効規定を削除
- 現行の民法の消滅時効は前述のとおり、権利行使できるときから10年間ですが、改正案では、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときにも時効により消滅するとの規定が追加されます。
多くの場合債権者は自らが債務者に対して権利行使しうることを知っていることが多いと思われますので、事実上債権の消滅時効は5年に短縮されることになります。これに伴って商法522条も削除される予定です。
また、職業別の短期消滅時効の合理性に疑問があるということから、民法の職業別の短期消滅時効についても削除される予定です。 - b. 生命身体侵害による損害賠償債権の消滅時効期間
- 従前の不法行為による損害賠償請求権については、生命身体の侵害とその他の侵害とで区別することなく一律に3年間の消滅時効となっていましたが、生命身体への侵害に対する損害については、被害者保護の必要性から加害者及び損害を知った時から5年間に時効期間が延長されています。
- c. 協議による時効完成猶予制度の新設
- 改正案では、当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面又は電磁的記録による合意があった時は、
- 合意があった時から1年経過時
- 合意で協議期間1年未満と定められたときは、その期間を経過したとき
- 当事者の一方が相手方に協議続行拒絶を書面又は電磁的記録で通知したときから6ヵ月経過したとき
- のいずれか早い時まで時効は完成しない。とされています。
- 同改正案は、現行においては時効中断の効力を生ぜしめるための手段として訴訟提起に直結しやすいことから、これを改善するための制度を新設するという趣旨です。
消滅時効の起算点について
(1)原則
消滅時効には起算点があり、原則的には権利行使できるときから時効は進行します(民法166条1項)。
(2)具体的な起算点
- a. 貸金返還請求権
返済日が決まっていればその日が起算点となります。
決まっていなければ、貸付を行った日が起算点となります。 - b. 工事請負代金
支払期日が決まっていればその日が起算点となります。
決まっていなければ、工事が完成した日が起算点となります。 - c. 賃金債権
労働者の給与については、給料日が起算点となります。 - d. 不法行為に基づく損害賠償請求権
損害及び加害者を知った時が起算点となります。
損害については損害の具体的な額について知る必要はなく、違法行為によって被った損害発生の事実を知れば足ります。
もっとも土地の不法占有の場合等、継続的に不法行為が行われている場合には、日々新しい不法行為に基づく損害があると考え、各損害を知った時が別個に起算点となります。
消滅時効の援用について
時効期間が経過したからといって当然に債権が消滅するものではなく、消滅時効は、援用しなければ債権消滅の効果が確定的に生じないとされています(民法145条 最判昭和61年3月17日)。
消滅時効期間が経過したとしても、この時効の援用を行う前に、債務者が債務の承認をしてしまうと、たとえ時効完成の事実を債務者が知らなかったとしても時効の援用権を喪失してしまいます(最大判昭和41年4月20日)。
そこで、自らの債務について消滅時効期間が経過している場合には、時効の援用をする必要があります。
具体的には、自らの債務(債権者にとっての債権)を特定したうえで、同債権については、すでに消滅時効期間が経過しているので消滅時効を援用するという内容の書面を作成し、配達証明付の内容証明郵便で債権者に対して郵送することになります。
消滅時効の中断事由について
時効の中断とは、それまで進行していた時効の進行が中断することを言います。
例えば、5年で消滅時効にかかる債権について、4年目で時効が中断すると、そこからさらに5年経過しないと同債権は時効により消滅することはありません。
民法に時効中断事由として規定されているのは以下の3つです。
(1)請求(民法147条1号)
請求とは、債権者が債務者に対しその権利内容を主張する裁判上及び裁判外の行為を言います。
具体的には、訴えの提起、支払督促※1、和解及び調停の申立て、催告※2が含まれます。
この中で、催告だけは、独立の中断事由ではなく、6か月間時効の完成を猶予するにすぎません。そこで、債権者としては、催告後6ヵ月以内に訴えを提起するなどの手段を講じる必要があります。
※2 裁判外において、口頭又は書面で、債権者が債務者に対して行う履行請求の意思の通知
(2)差押え・仮差押え又は仮処分(民法147条2号)
債権者が債務者に対し強制執行として差押を行ったり、仮差押え、仮処分等の保全行為を行った場合には、時効が中断します。
(3)債務の承認(民法147条3号)
承認とは、債務者が債権者に対し、権利が存在することを知っている旨を表示することを言います。
例えば、債務者が債権者に対して、支払を猶予して欲しいと申し込みをした場合、これは債務の承認となり、時効が中断します。