債権回収にあたって公正証書を作成する意味
(1)公正証書とは
公正証書とは、法律の専門家(裁判官、検察官等)としての経験を有し法務大臣により任命された公証人が、当事者間に一定の法律関係が存在することを認めた上で、これを公的に証するために作成する公文書です。
(2)公正証書を作成する3つの意味
- ① 証拠としての高い価値
公正証書のような公文書は、公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、作成者たる公務員(公証人)の真意に基づいて作成されたものと推定されます(民事訴訟法228条第2項)。
そして、公文書の中でも、公正証書が、そもそも当事者間に一定の法律関係が存在することを証明するために作成される文書であること、法律の専門家たる公証人により作成される文書であることから、その証拠としての価値は格段に高いものになります。 - ② 債務名義としての公正証書
通常、相手方の財産に対して強制執行をする場合、債務名義※1として、確定判決が必要です(民事執行法第22条第1号)。すなわち、相手方に対し、訴訟を提起し、勝訴の判決を得る必要があります。
もっとも、金銭債権について債務者の強制執行認諾文言※2の入った公正証書(執行証書)については、それ自体が債務名義となります(同法同上第5号)。
したがって、上記の公正証書を作成しておけば、債務者が債務の履行を怠った場合、時間と費用をかけて裁判をすることなく、強制執行が可能です。 - ③ 相手に対する心理的効果
上記①、②の公正証書の機能により、債務者にとっては、仮に訴訟になれば敗訴の可能性が高く、また、支払いを怠れば直ちに強制執行されるという心理的圧力がかかることになります。
公正証書の作成により、このような心理的圧力がかかることで、債務者からの任意の支払いを促す効果が期待できます。
※2 務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの
公正証書を作成するまでの流れ
(1)公証役場へ連絡・受付
まずは事前に、最寄りの公証役場に電話で予約を行い、指定された日に必要書類を持参して受付を行います。
(2)内容の聴取・公正証書の作成
事前にFAXなどで公正証書にしたい内容の文面を公証人に伝えておきます。
公証人の方で改善点や疑問点があれば補充で聴取が行われ、内容について適法性等検討した後、聴取した内容に基づき公正証書が作成されます。
作成された公正証書は、読み聞かせるか閲覧させることで当事者双方に内容の確認を行い、公証人と当事者双方で公正証書に署名捺印します。
(3)原本の保管と正本・謄本の交付
原本※3は、公証役場に原則として20年間保管されます。
正本※4は、権利者に交付されます。
謄本※5は、債務者に交付されます。
※4 証書全文のほかに、正本である旨を記載して公証人が署名捺印したもの
※5 証書全文のほかに、謄本である旨を記載して公証人が署名捺印したもの
公正証書を作成するにあたってのポイント
(1)債務の確認
公正証書は法律関係の存在を証するための文書であるから、特定の債務について債務者がその存在を認める旨の規定を入れる必要があります。
(2)遅延損害金等
債務者が債務の存在を確認したとしても、支払いを怠った場合にどのような効果が生じるかが不明であれば、債権回収の実効性が薄れます。
そこで、支払いを怠った場合の遅延損害金の規定、分割での支払の合意がある場合には、支払いを怠った場合には残額を一括で払えというような期限の利益の喪失についての規定を入れる必要があります。
(3)強制執行認諾文言
前述したとおり、強制執行認諾文言のある公正証書は執行証書として、債務名義となります。
したがって、債務名義としての効果を生じさせるためには同文言を入れる必要があります。
具体的には、「乙は、本契約による金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した。」等の規定になります。
公正証書作成の手数料
公正証書作成の手数料は目的の価額によって異なり、以下の表の金額となります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円に5,000万円ごとに13,000円を加算 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円に5,000万円ごとに11,000円を加算 |
10億円を超える場合 | 249,000円に5,000万円ごとに8,000円を加算 |