起訴される前も、起訴された後も被害弁償は、刑事責任を考えるうえでとても重要な要素になります。【起訴前に被害者と示談できれば】起訴されるかどうかの判断において被疑者に有利に考慮されます親告罪といわれる一部の罪(例えば、強制わいせつ罪、強姦罪等)については、被害者が被害届を取り下げてくれれば、そもそも法律上起訴することができなくなります【起訴後に被害者と示談できれば】情状事実として、刑を定めるにおいて有利に考慮されます(具体的には、そのことが理由で執行猶予付の判決が言い渡されたり、懲役刑の長さが短くなったりすることがあります)
被害者との示談交渉(被害弁償)
被害弁償とは、犯罪行為の被害者に対して、金銭等の賠償を行うことを言います。
示談は前述の被害弁償と重なる部分もありますが、被害者との間で民事的に事件の解決について合意している点が違います。
また、示談をする場合に、単に民事的な事件の解決のみにとどまらず、被害者から刑事事件の処罰についてまで踏み込んだ意思を表明してもらうことも可能です。
例えば、被害者から「加害者に対する寛大な処分を希望する」「厳罰は望んでいない」といった宥恕の文言を入れることもできますし、被害届や告訴を取り下げるといった合意を取り付けることもありえます。
検察官が刑事裁判において求刑を行う際、そして裁判所が判決において刑罰を決める際に、被害者の処罰感情が刑罰の重さに影響を与えます。
また、強姦罪等の親告罪においては、告訴の取り下げがあった場合には、そもそも捜査を行ったり、公判(刑事裁判)を開くことができません。
したがって、被害者との間で示談交渉を行い、通常は厳しい処罰感情を持っている被害者に、加害者の処罰感情を和らげてもらい、それを刑事裁判において裁判官に理解してもらうことが、とても重要です。
そして、被害者の多くは加害者と直接連絡を取りたくないとの意向を持つ方が多く、仮に親族等を通じて連絡を取ることができたとしても、感情的な問題や示談ができた際の示談書の作成、その後の刑事裁判における証拠提出を考えると、加害者である本人自身もしくはその家族が示談交渉をされるよりも、弁護人が行う方が適切な場合が多いといえます。
窃盗罪などの財産犯においては、被害弁償を行ったか行っていないかは損害の回復があったかどうかという意味において、一般的な情状のみならず犯情(犯罪の経緯等に関する情状)にも大きな影響を及ぼします。
それまで前科前歴がなく、被害の額がわずかであるといった場合においては、被害弁償を行った上で被害者と示談することができれば、不起訴処分となる可能性もあります。
また、同種の前科等があり、あるいは、被害の額が小さいものではなかった場合であっても、被害弁償がなされているかどうかで執行猶予が付くか付かないかの判断が分かれることは十分に考えられます。
暴行罪や傷害罪等の身体に対する罪については、治療費や慰謝料等を含めた被害者の損害の賠償を行うことになります。
身体に対する罪の場合、犯情に及ぼす影響という点では、財産犯に比べれば弱くなりますが、被害者が反省し被害の金銭的な償いがなされているということは、情状事実として刑罰の重さを定めるのに大きな意味を持つ事実といえます。