離婚訴訟の提起と離婚訴訟の手続の流れ
離婚訴訟を提起するにはどのようにすればいいのか、離婚訴訟の手続きはどのように進んでいくのか、についてその概要を以下では解説します。
離婚訴訟を提起するには
1. 離婚調停前置主義
離婚訴訟をするためには、離婚調停を経ることが必要です。
この考えを調停前置主義といいます。
ただ、調停を経て入れはよいので、調停が不成立になった場合のみならず、調停を申し立てたものの、取り下げた場合でもよいとされています。
なお、調停の申立てを行わずにいきな離婚訴訟を提起した場合には、家庭裁判所から事件を調停に付されます。
2. 離婚裁判の訴え提起に必要な書類は
まず、訴状が必要です。
次に弁護士に委任する場合には訴訟委任状が提出します。
さらに、調停不成立の調書又は調停申立書(裁判所の収受印があるものが望ましいです)。
そして、証拠として夫婦の戸籍謄本が必要となります。
その他財産分与の請求を行うのであれば、財産分与額を示す資料(預金通帳等)を提出する必要があります。
3. 離婚裁判に必要な費用は
収入印紙が1万3000円必要になります(後記のとおり、他に財産分与や慰謝料を追加した場合には、その分だけ収める印紙の額が増えることになります。額については提訴される裁判所にご確認ください)。
次に、弁護士に委任するのであれば弁護士費用(委任された弁護士にご相談ください)。
さらに裁判所に書面を相手方に郵送するための郵便切手を予納する必要があります(これも提訴される裁判所にご相談いただければよいのですが、大体6000円前後です。ただ、郵便切手の券種を指定されるので、ご注意ください)。
離婚裁判(第1審)の流れ
1. 家庭裁判所への訴え提起
- ① 管轄まず。どこの家庭裁判所に提訴できるかを確認する必要があります。夫又は妻の住所地を管轄する家庭裁判所に対し提訴できます。具体的には、妻が離婚を求める場合には妻の住所地を管轄する家庭裁判所に対し離婚訴訟を提訴できることになります。なお、ご留意いただきたいことは、未成年の子がいる場合には、家庭裁判所はその子の住所地を考慮して管轄を定めるものとされています。具体的には、夫が東京在住で、妻と子どもが福岡在住の場合で、夫が東京家庭裁判所に提訴した場合、東京家庭裁判所としては、事案によっては、子の住所地を管轄する福岡家庭裁判所に移送(事件の審理を福岡家庭裁判所で行わせること)されるかもしれませんので、ご注意ください。そして、通常の民事訴訟と異なり、当事者間で管轄裁判所を合意したとしても(合意管轄)、家庭裁判所はこれに拘束されませんので、この点もご注意ください。
- ② 付随請求次に、離婚をするに当たっては、財産の整理や親権者の指定が必要となることもあります。また、離婚調停から離婚訴訟にかけて本来負担すべき生活費の負担がなされていないことが多々あります。そして、夫又は妻の浮気について慰謝料を請求した場合もあると思います。このような場合に、例えば財産を整理するために財産分与請求や、子の親権者の指定、生活費の負担としての婚姻費用の請求も一緒に審理してもらうことが可能です。これらの請求又は申立ては、裁判で離婚が認められた場合に、一緒に判断されますので、必要があれば追加しておいてください。
- ③ 訴状等の提出訴状及び証拠資料を提出する場合には、ご留意いただきたいことがあります。離婚訴訟を提起する原因が配偶者のDV等であり、いま所在地を当該配偶者から隠して生活している方も多いと思います。離婚訴訟の原告が提出した資料は基本的には被告に送付されます。つまり、不用意に連絡先・勤務先等を記載すれば、それが被告に判明することになり、ひいては二次被害を引き起こす恐れがあるのです。そこで訴状の原告の住所地欄は夫婦で生活していた地(おそらく住民票の住所地となると思います)にするとか、源泉徴収票を提出する際には職場の連絡先欄についてはマスキングして提出する等の防止策を行ってください。
- ④ 裁判所の受理及び第1回口頭弁論期日の指定管轄権を有する家庭裁判所に訴状等を提出しこれが受理されると、家庭裁判所から第1回口頭弁論期日の日程調整の連絡がきます。またその際に事件番号が告げられることが多いので、書きとめておきましょう。なお、期日の候補日は平日(月曜日から金曜日まで)の午前10時ころから午後5時までの間です(午前中であれば午前10時~11時までの間。午後であれば1時から4時までの間が多いです)。
- ⑤ 被告への訴状等の送達と答弁書提出要求第1回口頭弁論期日が確定すると、裁判所は被告に対し訴状等を送付するとともに答弁書の提出要求を行います。答弁書は期日の1週間前までに提出を求められることが多いようです。
2. 第1回口頭弁論
ここでは、第1回口頭弁論で何を行うのかについて検討します。
- ① 争点の確定離婚訴訟においては、原告の主張する離婚の原因があるはずです。これに対して被告が何らかの反論をしている場合が多いので、その原告の主張と被告の反論とがぶつかり合っている点を争点といいます。そして、裁判所、原告及び被告間で争点を確認し、その意識を共有します。
- ② 争点に関する当事者の主張争点が確定したとして、これに対し当事者がどのような主張をしているかを確認します。主張の不明瞭な点は、裁判所から補充するように求められます。例えば、離婚の原因が夫又は妻の浪費であるならば、収入がどの程度で、支出はどの程度なのか、どのようなことに支出したのかなどついて詳しく主張するように求められるといったことです。
- ③ 当事者の主張に対する証拠の有無争点に関する主張が確定したとしてその主張を裏付ける証拠としてどのようなものがあるのかについては、別途検討が必要です。基本的には離婚訴訟にはいわゆる職権探知主義が採れられているものの、基本的に証拠は原告と被告が互いに提出しあうものです。
- ④ 今後の進行一通り、上記①~③までの手続きを終えると、裁判所から今後の進行予定を告げられます。主張や証拠の補充が必要であれば、そのための提出期限が定められますが、裁判所がと判断した場合には、尋問が開催されるのが通例です。つまり、夫婦の両方に対し裁判所で尋問を実施するということです。
3. 事例ごとの提出すべき証拠
では、ここで、証拠の提出の方法について検討しましたので、これを基に裁判所はどのような事実に対しどのような証拠を提出していくか実を認定することになるかを検討していきます。
- ① 不貞行為異性との交際を窺わせる電子メール及び手紙、スマートフォンや携帯電話に保存された写真・画像、SNSの利用状況を示した報告書等があります。ただし、SNSについては、配偶者のID及びパスワードを配偶者に無断で使用して、アクセスすることは、不正アクセス禁止法に抵触するので厳禁です(刑罰を課させられるおそれがあります)。また、配偶者の同意なく配偶者の車にGPSを装着するよう行為も不法侵入といわれかねないほか、電波法違反の可能性もあるので厳禁です。そのような方法をとるのであれば、弁護士を通じてメールの履歴を適法に入手してもらうのが安全です。なお、興信所の利用については、費用が高額なので調査期間や方法を比較検討して利用するかを検討すべきであると考えます。
- ② DV被害DV被害について警察に相談していた場合には警察の相談録、診断書、DV防止法に基づく保護命令を受けていた場合には命令書を提出することになります。なお、「子」を目撃証人として証人申請する方法も考えられますが、子の心情に配慮して慎重に考えるべきです。
- ③ 婚姻関係の破綻婚姻関係の破綻で重視されるのは別居期間ですので、別居した時期と場所を示す別居場所の賃貸借契約等を提出することになります。その他に別居に至った経緯を書いた陳述書を提出することになります。
- ④ 財産分与夫婦の財産の総額を示した財産目録を作成し、その原資料として預貯金の通帳の写し、保険証書、不動産の謄本と不動産会社に作成してもらった簡易鑑定などの婚姻開始から婚姻関係破綻までの期間の財産関係を示す資料を提出します。
- ⑤ 親権者の指定子どもの養育暦を示した陳述書、学校の状況等を示した報告書を提出することになります。なお、子ども自身の心情を明らかにするため子ども自身を証人とすることも考えられますが、慎重に考えてください。
4. 第二回以降の口頭弁論
裁判所が主張と証拠の整理を行うため、当事者は主張書面を提出したり、証拠を提出したりすることになります。
裁判所がこれで十分と判断したときには、法廷で夫婦の双方から話を聞く手続(当事者尋問)が実施されることになります。
当事者尋問の前には、尋問で証言する事項をまとめた陳述書を提出することになります。
そして、尋問では、離婚に至る経緯(不貞行為等があればその具体的な事実)や子どもの状況などが聞かれることになります。
5. 離婚裁判の判決
当事者尋問が終わると裁判所は和解勧告を行います(裁判官によっては当事者尋問前に和解勧告を行う場合や、当事者尋問の前後で2度和解勧告を行う場合もあります)。
和解勧告で当事者が合意できない場合には判決となります。
以下のメリット・デメリットを考慮してどちらの解決にするかを検討してください。
- ① 和解を受諾することのメリット・デメリット○ メリット和解のメリットは、裁判がこれで終了することにあります。これ以上、つらい裁判を続ける必要がなくなることです。さらに、和解交渉の場で、判決では得られないような解決をすることも可能です。例えば不貞行為をした配偶者に対し謝罪を求める、子の面会交流について場所、回数等の具体的に取り決めることができるなどです。○ デメリット和解は互譲(=共に譲る)なので、判決のように請求を100%認めさせることはできません。一定の割合は相手に譲らなければなりません。また、和解は事件を終了させてしまうので、和解に対する不服申立てはできません。したがいまして、和解を行う場合には、慎重に検討する必要があるのです。
- ② 判決をもらうことのメリット・デメリット○ メリット請求が100%認められる可能性があります。しかも判決の事項を遵守しなければ強制執行により判決内容を実現することができます。また判決の内容に不服があれば、高等裁判所に対し控訴することができます。さらに高等裁判所の判決に不服があれば、最高裁判所に上告又は上告受理の申立てをすることができます。○ デメリット判決が確定(判決書が裁判所から通知されてから2週間以内に当事者のいずれもが不服申立てをしないこと)しない限り、事件は終わりません。また請求した内容しか実現することはできません。和解のように配偶者への謝罪などは行わせることはできません。
相手方が裁判に欠席しているときはどうなるの?
この場合において、もともと相手方に対し裁判所からの送達ができなかった場合と送達は完了したものの裁判を欠席した場合に分けて検討します。
1. 相手方に対し裁判所からの送達ができなかった場合
この場合には相手方が行方不明となっているケースが多いと考えられます。
そして、裁判においては、裁判所からの文書が相手方に送達されて初めて裁判所が事件を審理できるという関係にあります。
しかし、このままでは離婚はできないというのも常識に反します。
そこで、まず、公示送達という制度を利用します。
裁判所の掲示板に掲示されてから2週間を経過した時点で、裁判所からの送達が完了したとされる制度です。
その後は、裁判所で被告が欠席のままで裁判が進行することになります。
また、長期間行方不明であれば、失踪宣告という制度を用いて相手方が死亡したみなすこともできますが、これは離婚訴訟とは別の申立てですので、ここでは割愛します。
2. 相手方に裁判所からの送達はできたものの裁判を欠席した場合
通常の民事訴訟であれば原告が訴状を提出しておけば、欠席被告が全て訴状記載の事実を認めたものとして即判決ということになります。
他方、離婚訴訟の場合は、被告が欠席しても欠席被告が訴状の内容を全て認めたものとはなりませんので、証拠を取り調べて上で、判決ということになります。
離婚裁判で離婚が成立した場合,判決確定後はどうしたらいい?
判決が確定したときから10日以内に、原告は、判決書の謄本、離婚届を本籍地の市役所に届ける義務があります(本籍地以外の市役所に届け出る場合には戸籍謄本を添えて提出します)。
この届出義務を怠った場合には過料の制裁の対象となります。
離婚裁判で離婚が成立しなかったなど判決内容について納得がいかない場合(上訴の有無)
判決確定の日から2週間以内に家庭裁判所に対しその家庭裁判所を管轄している高等裁判所宛に控訴状を提出することにより控訴をすることができます。
さらに、高等裁判所の判決に不服がある場合には、高等裁判所に対し最高裁判所宛に上告(上告受理)を行うことができます。
今回は離婚裁判の流れについて書いていきましたが参考になりましたでししょうか。
ただ、具体的な事案において、離婚訴訟の各局面において様々な判断を行う際には、法律専門家のアドバイスが有用であると思われますので、離婚訴訟の当事者となられる場合には、法律の専門家である弁護士のアドバイスを受けることを強くお勧めします。