子供名義の預貯金や学資保険の財産分与
子供名義の預貯金は、争いになりやすいですが、夫婦共有財産であると主張したい側も、子供の固有財産であると主張したい側も、あきらめることなく、その原資について、しっかりと説明するべきです。
なお、立証責任は、子の固有財産であると主張する側にあります。
また、学資保険をどうしても取得したい場合は、養育費の話とセットにしてよく協議することが必要です。
それでは、子供名義の預貯金や学資保険の財産分与について詳しく解説いたします。
子供名義の預貯金
原資は何か?
子供名義の預貯金がある場合に、この預貯金が、財産分与の対象となるか否かは、その預貯金が「夫婦で協力して築いたものか否か」によって決まります。
そこで、夫もしくは妻が働いて得たお金が、子供名義の口座に貯められていると認められる場合には、夫婦共有財産であるとして、財産分与の対象となります。
一方、子供がもらったお年玉や入学などのお祝い金を貯めたものである場合や、子供自身のアルバイトの給料を貯めたものである場合には、「子供の固有財産」ですので、夫婦共有財産ではなく、財産分与の対象とはなりません。
つまり、「子供名義の預貯金がどのような原資から形成されたのか」が重要な判断要素となるのです。
例えば、毎年1月頃に入金されているとか、子供が入学した頃に入金されているというような事情があれば、子供の固有財産であるという推定が働きやすくなります。
一方で、アルバイトもできないような年齢の子供の口座に何百万円もの預貯金があれば、親のお金を入れたものであると推認できます。
平成24年1月のさいたま家庭裁判所の判決では、当時10歳の長女が自由に処分するには、金154万円という預金は多額であること、長女が預金の入出金をしていないこと、お年玉は別の長女名義の口座に貯めてあることから、金154万円の長女名義の預金は、夫の収入を原資としているとして、夫婦共有財産とされています。
子供への贈与とされる場合
一方で、金額が多額であっても、子への贈与であると認められて、財産分与の対象とならなかった事案もあります。
高松高等裁判所平成9年3月27日判決では、「(長女名義の預金約243万円、三女名義の預金約137万円は)いずれも子に対する贈与の趣旨で預金されたと認めるのが相当であるから、財産分与の対象財産とはならない」と判示されています。
もっとも、この判例の原審(第1審)での事実認定が不明なため、なぜ、「子に対する贈与の趣旨で預金された」という認定になったのかという詳しい事情まではよく分かりません。
例えば、祖父母から子供に贈与したお金や、子供が遺贈されたお金などは、子供の固有財産になりますから、子供名義でも多額の預貯金が存在することはありえます。
もっとも、親族間の贈与は証拠がないことも多く、これを立証するには、何の目的で贈与したのかという事情や、子供名義口座への入金があった時期に、祖父母の口座からの出金があるとか、父母の口座からは出金がないというような事実を丁寧に主張立証していく必要があります。
児童手当などを原資とする場合
児童手当などの公的な給付金は、「子育てのため」に親が適切に使用することを前提として給付されているものであって、子供本人が自由に処分することを認めて贈与されたものではありませんから、子供の固有財産ではなく、夫婦共有財産であると考えるべきです。
そもそも、児童手当を子供名義で貯めていたか、親名義で貯めていたかによって差が出るのも公平ではありません。
例えば、夫の毎月の収入が30万円で、児童手当月1万円もらえる家庭Aと家庭Bがあったとします。
家庭Aでは、児童手当を夫名義の口座に振り込んでもらい、月31万円で生活し、毎月3万円ずつ貯金していて、夫名義の貯金が150万円あったとします。
この場合、この150万円は全額財産分与の対象です。
一方、家庭Bでは、児童手当を子供名義の口座に振り込んで貯めていました。
そして、月30万円で生活して、月2万円を貯金していました。
その結果、夫名義の貯金は100万円、子供名義の貯金は50万円ありました。
この場合に、財産分与の対象を100万円だけであると考えるのは上記家庭Aの場合と比べて不公平であると言えるでしょう。
児童手当だけではなく、出産一時金、出産祝い、児童手当、自治体からの補助金も財産分与の対象であると判示した審判例もあります。
学資保険
学資保険は、夫もしくは妻が働いて得たお金を保険料として支払うことによって築いてきたものですから、夫婦共有財産です。
そこで、原則として、財産分与の基準時における解約返戻金相当額が、財産分与の対象となります。
学資保険は、子供の進学などに備えて加入しているのですから、子供の親権者になる方の親が取得したいという気持ちは分かりますが、あくまでも、子供の学費などは養育費の問題であり、学資保険は財産分与の問題ということになっています。
もっとも、離婚にあたって、子供の親権者となる親が学資保険を取得して、子供の学費に充てるということを合意することはよくあります。
しかし、離婚にはいろいろな原因があって、当事者も感情的であることも多く、離婚協議が泥沼の状態になっていると、このような合意はなかなか難しいものです。
そこで、双方がこれに合意しない場合には、財産分与の対象となってしまいます。
その場合には、夫が契約者である学資保険を妻が今後も保険料を払い続けることにして、契約名義を夫から妻に変更し、妻は夫に対して、解約返戻金相当額の半額を払うという解決をすることもあります。