離婚する際に、財産分与としてまだ支払われていない退職金の予定額を考慮してもらうことができるか?
夫婦は、結婚後、共同生活を営む中で働いて得た給料を貯金したり、居住用の不動産を購入する等して、夫婦共同の財産を形成していきます。
夫婦が婚姻中に取得する様々な財産は夫婦相互の協力によって得たものですから、夫婦の一方配偶者は他方配偶者に対して、離婚に際して、婚姻中に形成した財産の分与を請求することができます。
この権利を財産分与請求権と言います。
財産分与請求権の対象となる財産には、預貯金、不動産、自動車、保険(解約返戻金)、株式及び有価証券等、様々なものがありますが、ここでは特に、将来支払われる予定の退職金の扱いについて説明したいと思います。
どういう場合に退職金が財産分与の対象となるのか
退職金は、労働の事後的な対価としての性質を有していますから、本来、給料と同じく夫婦が共同して形成した財産と評価すべきものです。
特に離婚時、夫婦に預貯金や不動産といっためぼしい財産がなくても、一方配偶者が将来まとまった退職金を得られるのであれば、この退職金を含めて他方配偶者への財産分与額を決定するのが公平といえます。
しかし、財産分与は、基本的に、離婚する時点で存在する財産を分与するものです。
そもそも、本人が必ずしも定年まで同じ会社で勤務するとは限りませんし、懲戒解雇されたり、定年前に亡くなるかもしれません。
また、勤めている会社が確実に将来も存続するとは限りません。
さらに、退職金は様々な要素を総合考慮して決定されるものですが、退職の際の事情などによって、その金額が変動する可能性があります。
そこで、将来の退職金は、原則として財産分与の対象となりませんが、退職が間近に迫っており、近い将来退職金が支払われることが確実であるといえる場合には、財産分与の対象となるとされています。
では、具体的にどのような場合に、財産分与の対象となるのでしょうか。
この点については、退職予定日までの年数、勤務先の経営状況、本人の勤続年数・転職の回数等の具体的な事情が総合的に考慮されることになります。
すなわち、公務員であれば将来勤務先が倒産するおそれはないので退職金の支給は確実といえ、退職予定日までの年数が比較的長くても財産分与の対象となりやすいといえます。
会社員であれば、一般的に大企業の方が中小企業より倒産の可能性は低く、退職金支給が確実といえますので、大企業の方が退職予定日までの年数が長くても財産分与の対象となりやすいといえます。
また、本人が転職しがちで仕事が長続きしない傾向にある等、現在の勤務先で将来長期にわたって働き続ける可能性が低いという場合には、将来退職金を確実に受給できるとは言い難く、財産分与の対象とならないと判断されることになります。
退職が間近といえない場合
前述した、「退職が間近に迫っており、近い将来退職金が支払われることが確実であるといえる場合」という基準に照らすと、若年の夫婦で、定年までの期間が数十年あるといった場合には、定年退職時に支給される予定の退職金は財産分与として認められないことになります。
しかし、この場合でも、別居時(離婚時)に自己都合退職した際、支給されるであろう退職金相当額を財産分与の対象として認められる場合があります。
また、直接財産分与の対象とならない場合でも、将来支給される予定の退職金や確定拠出年金が、「扶養的財産分与」の要素として斟酌される場合があります
名古屋高裁平成21年5月28日の判例では、夫が44歳で定年まで15年以上あることから、退職金及び確定拠出年金の受給の確実性は必ずしも明確でなく、直接清算的財産分与の対象とすることは困難としながら、「扶養的財産分与」の要素として考慮し、夫婦共有名義のマンションの夫持分について、長女が高校卒業するまでの期間安価で妻に賃貸することを命じています。
財産分与の対象となる場合の請求できる金額の割合について
財産分与の基本は折半ですが、勤続年数が婚姻期間よりも長い場合、退職金については特別な計算方法がなされます。
すなわち、例えば、夫が25歳から勤めている会社を65歳で定年退職する予定(退職金として1000万円が支給される予定)のところ、夫が30歳の時に結婚し、60歳の時に離婚したとします。
上記場合、勤続年数が40年で、婚姻期間が30年ということになります。そうすると、退職金に対する妻の貢献度は75%(30年/40年)となりますので、1000万円のうち750万円が財産分与の対象となると考えることができます。