住宅を購入する際、例えば夫が主債務者、保証会社が連帯保証人となって住宅ローンを借り入れ、妻が保証会社の夫に対する求償権について連帯保証をし、住宅を夫婦の共有不動産として、この不動産全体に保証会社が求償権を担保するために抵当権を設定しているようなケースも多いかと思います。
このようなケースで、主債務者である夫が住宅ローンの支払いを続けることが難しくなった場合、抵当権の実行を回避して住宅を維持するために、主債務者である夫ではなく、住宅の共有者で、求償権についての連帯保証人である妻において個人再生における住宅資金特別条項を利用することができるのでしょうか。
今回は、住宅ローン保証会社の求償権の連帯保証人が個人再生における住宅資金特別条項を利用できるか否かについて解説します。
結論から言うと求償権の連帯保証人は住宅資金特別条項を利用することはできない
結論から言うと、住宅ローン保証会社の求償権の連帯保証人は、個人再生における住宅資金特別条項を利用することはできません。これは、住宅ローン保証会社の求償権が、民事再生法に定める「住宅資金貸付債権」とは認められないからです。
以下、くわしく説明します。
「住宅資金貸付債権」とは?
まず、個人再生における住宅資金特別条項を利用が認められるためには、「住宅資金貸付債権」を有していることが必要です。
この「住宅資金貸付債権」とは、①貸付にかかる資金が、住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付に係るものであること、②分割払いの定めのある再生債権であること、③その債権又はそれを保証した保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること、という3つの要件をすべて満たす債権のことをいいます。
なお、「住宅資金貸付債権」には、上記①記載のものだけではなく、住宅の改良(増改築のほかバリアフリー化工事等のいわゆるリフォームも含まれます。)に必要な資金として貸付がなされた債権もこれに含まれることとしています。
また、いわゆる住宅ローンの借り換えが行われた場合には、この借り換えのための貸付に係る債権も「住宅資金貸付債権」に該当します。
保証会社が有する求償権にかかる保証債務履行請求権は、「住宅資金貸付債権」に該当するのか?
保証会社が妻に対して有する求償権にかかる保証債務履行請求権が「住宅資金貸付債権」に該当するか否かが問題となります。
仮に、個人再生の申立てを行うのが妻ではなく夫である場合は、夫が住宅資金特別条項を利用することができるということに異論はありません。
これは、夫が負担している債務は、上記①から③のすべての要件に該当する住宅ローン債権であり、法文上、明らかに「住宅資金貸付債権」に該当するからです。
これに対し、妻が負担している債務は、住宅ローンそのものではなく、住宅ローン保証会社の求償権に係る連帯保証債務であるため、この求償権に係る保証債務履行請求権が「住宅資金貸付債権」に該当するか否かが問題となります。
この点、保証債務履行請求権は、住宅の建築等のために必要な資金の貸付債権ではなく、不動産に設定されている抵当権の被担保債権でもありません。
また、抵当権の被担保債権である保証会社の夫に対する求償権については、妻が個人再生の申立てを行った場合の手続き上、再生債権には該当せず、再生計画の効力が及ばないため、妻の個人再生の申立てにより抵当権の実行を回避することはできません。
このように、保証会社の妻に対する求償権に係る保証債務履行請求権は、上記①から③の要件をいずれも満たさないため、「住宅資金貸付債権」には該当しないと考えられます。
まとめ
したがって、妻が、個人再生における住宅資金特別条項を利用することはできないと考えられます。
以上、個人再生における滞納家賃や滞納水道光熱費の解消の問題は法律上の難しい問題を含んでいるため、自分だけの判断により対応することなく、適宜、弁護士と相談した上、対応するようにしましょう。