個人再生では、再生計画の認可決定が確定した後、やむを得ない事情で再生計画とおりに返済を行っていくことが著しく困難となったときには、再生債務者の申立てにより、再生計画で定められた弁済の期限を延長することができます。
今回は、病気にかかってしまったり、職を失ったり、給与が大幅にカットされるなどして当初の再生計画とおりに返済が行えなくなってしまった場合の再生計画の変更や延長についてご説明したいと思います。
認可決定後に注意すべき点
まず、個人再生において注意しなければならないのは、再生計画の認可決定の確定後でも、それが取り消されてしまう場合があるということです。もちろん再生計画に基づいて返済をしていけば基本的に問題はありません。
しかし、再生計画に沿った返済ができなくなった場合には、再生計画が取り消されてしまうことがあり、その理由として一番多いのが弁済を怠ってしまったというケースです。
この場合、債権者から再生計画取り消しの申立てがなされ、再生計画が取り消されてしまうということになりますが、再生計画が取り消されてしまうと、再生計画に基づき減額された借金は、減額前の元の金額に戻ってしまうことになります。
再生計画変更の申立て
では、病気や失職、給与の減額などで予定とおりの返済ができなくなってしまった場合には、どうすればいいのでしょうか。
このように、やむを得ない事情で再生計画に沿った弁済ができなくなった場合は、再生計画の変更の申立てを行い、再生計画で定められた弁済期間を最長2年の範囲で延長することができます。
この申立ては、①再生計画で定められた最終弁済期限までに行う必要があり、②やむを得ない事由によって再生計画の遂行が著しく困難であるという条件が必要です。なお、変更できる内容は返済期間の延長のみであり、債務の減免は認められません。
つまり、変更の申立てをして、返済期間を最長2年の範囲で延長することはできるけれど、返済総額を減らすことはできないということになります。
また、再生計画の延長は住宅ローンにまでは適用されません。
再生計画を変更するための条件
(1) やむを得ない事由があること
この「やむを得ない事由」とは、再生計画を作成する段階では予想できなかったが、仮に予測できていたならば、各返済期の弁済額をより低額にした再生計画案を作成したはずという事情と解されます。
具体的には、勤務先等の業績不振が原因で給与が減額になったとか、勤務先の倒産等による失業やそれに伴う転職で給与が減少したというように収入が大幅に減額になった場合が典型例ですが、収入の減少に限らず、再生債務者やその家族の病気等により予想外に支出が増大した場合などが考えられます。
ただし、自己都合による退職やギャンブルや買い物などの浪費により再生計画が履行できなくなったという事情では、再生計画の変更を申し立てることはできません。
(2) 再生計画の遂行が著しく困難であること
再生計画の変更が認められるためには、「再生計画を遂行することが著しく困難」となることが必要です。
具体的には、ちょっと返済が苦しくなってきたとか、1~2回程度支払えなかった(不履行があった)だけでは、直ちに再生計画の遂行が「著しく」困難であるとは言えず、各弁済期の返済額を低額に見直さなければ、継続的に支払えなくなる(不履行になる)可能性が高い場合に「著しく」困難であると解されます。
この判断材料として、直近の家計収支表や減収を疎明する資料として給与明細書などを提出し、実際にどの程度支払いが困難であるのかを客観的に判断されることとなります。
手続きの流れについて
再生計画の変更を申立てる方は、既に返済に行き詰っている場合が多いかと思いますが、裁判所に再生計画の変更の申立てを行ってから、実際に認可されるまでには3か月以上の期間がかかるため注意が必要です。
ここでは、手続きの大まかな流れについて説明したいと思います。
(1) 申立て
再生計画の変更の申立ては、再生債務者のみが行うことができます。
申立ては、変更を必要とする具体的な事情を記載した変更の申立書と変更計画案を提出して行います。なお、申立てにかかる費用としては、予納金(裁判所に納めるお金)1万円、と個人再生委員の報酬(事案により異なりますが、後記履行テストの分割予納金の範囲内で決定されます)が必要です。
また、変更の内容については、前述のとおり、返済期間(債務の期限)の延長のみ認められており、弁済総額を減らすという内容の変更はできません。この点、弁済総額を減少させないと再生計画の遂行が困難と判断される場合には、再度、改めて個人再生の申立てを行うことを検討することになります。
この返済期間(債務の期限)の延長は、2年の範囲内でのみ認められており、個人再生手続きにおける再生計画による弁済期間は原則3年(例外的に5年)ですので、変更の申立てにより5年(最長で7年)まで延長することができます。
なお、再生計画の変更申立てについては、法律上特に回数制限は設けられていませんので、弁済期間を1年間延長する再生計画の変更を行った後、変更後再生計画についてもやむを得ない事情で返済が困難となった場合には、再度、弁済期間を更に1年間延長する再生計画の変更申立てを行うことも理屈上は可能です。
もっとも、回数制限がないとしても、あくまでの当初の再生計画案の弁済期間を基準にして2年の範囲内に限ると解されます。
また、前述のとおり、再生計画の延長は住宅ローンにまでは適用されません。
(2) 個人再生委員の選任
変更の申立てを行うと、裁判所は、再生計画の変更の要件や変更計画案の履行可能性等を判断するにあたり、個人再生委員を選任します。
選任された個人再生委員は、①再生債務者の財産及び収入の状況の調査、②再生債務者が適正な変更計画案を作成するために必要な勧告をし、①の調査結果については、変更要件にかかる意見書と共に裁判所に書面で報告します。
(3) 履行テスト
裁判所は、変更計画案の履行可能性についての判断材料とするため、申立てから変更決定までの間、履行テスト(分割予納金)として、変更後の計画弁済予定額を個人再生委員名義の銀行口座に入金するという運用をしています。
もっとも、この期間も、従前の再生計画の履行期間と重なって分割予納金の入金が困難な場合もあり得ることから、そのような場合には、個人再生委員が再生債務者やその代理人と協議をしながら、変更計画案の履行可能性について判断することとなります。
なお、個人再生委員の報酬は、この履行テストの分割予納金の中から、事案に応じて決定されることになります。
(4) 個人再生委員の意見書の提出
個人再生委員は、上記(2)記載のとおり、再生債務者の収入および財産の状況について調査をした上、再生計画の要件や変更計画案の履行可能性等について検討し、変更計画案につき付議決定又は意見聴取決定をするのが相当か否かの意見書を裁判所に提出します。
(5) 変更計画案の書面決議、意見聴取
裁判所は、個人再生委員の意見も踏まえ、適法な再生計画の変更申立てであると認められる場合には、小規模個人再生では書面決議に付され、給与所得者等再生では意見聴取の手続きに進みます。
裁判所は、書面決議の可決後または回答期間の経過後、不許可事由の有無の審査を行い、不許可事由が認められなければ変更決定を行います。
(6) 変更決定
再生計画の変更は、変更決定の確定により効力が生じます。変更決定から確定までは、通常約4週間です。
まとめ
このように、個人再生において、減収や病気などのやむを得ない事情により、当初の再生計画とおりに返済ができなくなった場合、再生計画変更の申立てを行い、返済期間を延長するという方法をとることができます。
また、再生計画の変更ができない、条件を満たすことができないという場合などには、別の方法(自己破産の手続きに移行する、ハードシップ免責という制度を利用する、債権者と個別に任意整理をするなど)を検討する必要があります。
そもそも再生計画変更の申立てができるのかを検討したり、また、再生計画変更の申立てを行うには一定の条件があますので、個別具体的な事情に応じてそれぞれ慎重に検討する必要があります。
これには専門的な知識を必要としますので、同じような状況でお悩みの方は一度弁護士にご相談されてください。