遺産相続 相続財産管理人

2021/06/09
遺産相続 相続財産管理人

相続財産管理人

身寄りがない方が亡くなって、相続人がいない場合やいるかどうか不明の時、あるいは相続人全員が相続放棄したときなど、そのままでは相続財産の管理や手続きが行えない場合があります。

このようなときは、利害関係者などからの申立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。

こ相続財産管理人とは、1.相続人を捜索するとともに、2.相続財産の管理清算の職務にあたる者をいいます。。

選任された相続財産管理人は、家庭裁判所監督の下、相続財産の帰属先への引き渡しまで必要な職務を行います。

相続財産管理人選任手続きとその後の流れ

相続財産管理人選任の流れ

相続財産管理人の具体的な職務

相続財産管理人の職務は、一言でいえば、「相続財産の適切な管理・清算と相続人の捜索、特別縁故者の検討を経て、相続財産の帰属先への引き渡し」です。

また、この職務を行ううえで、重要なことは、相続財産管理人は、相続財産管理人の選任申立てをした者の代理人ではなく、いわば「相続財産の法定代理人」として、相続財産の管理について、善良なる管理者の注意義務を負うことになります。

1.相続財産の管理(相続財産の調査、相続財産目録の作成)

相続財産管理人は、選任後速やかに、相続財産を調査し、相続財産目録の作成をしなければなりません。

具体的には、相続財産管理人申立書や申立人等の利害関係人との面談調査、被相続人の最後の住所地の現地調査、金融機関等に対する取引状況の照会調査等を経て、できる限り正確な相続財産目録を作成する必要があります。

2.相続債権者や受遺者の有無の確認と弁済

相続財産管理人は、請求申し出をした相続債権者、その他知れたる債権者の債権の存在を確認し、その債権者に対して弁済を行います。

また、請求申し出をした受遺者、その他知れたる受遺者に対しても弁済を行います。

相続財産管理人は、この弁済について法律の定めに反した弁済を行った結果、損害を被った相続債権者や受遺者がいる場合には、それによって生じた損害を賠償する責任を負うことになるので、注意が必要になります(民法957条2項、934条1項)。

3.相続人の捜索の公告

相続債権者や受遺者に対する請求申し出の公告期間満了後、相続財産は 家庭裁判所に対し、相続人捜索の公告の請求を行います。

すなわち、「相続人の方は申し出てください」ということを裁判所の掲示板その他裁判所内の公衆から見やすい場所に掲示し、加えて官報に掲載する方法で、相続人探しをすることになります(この方法により相続人が見つかることは稀ですが、民法に定められている手続きになります)。

4.特別縁故者に対する相続財産の分与手続における意見聴取

特別縁故者が、家庭裁判所に対して、「特別縁故者に対する相続財産分与審判申立」を行うと、これについて裁判所が審判を下すための手続きがスタートします。

すなわち、特別の縁故があったと主張する者の申立てにより、裁判所が、特別縁故者に対して、相続人の不存在が確定した財産の分与をすべきか、また分与をすべきとしてどの程度の財産を分与すべきか、ということについての審判を下すための審理をすることになるのです。

その手続において、家庭裁判所は、「相続財産管理人の意見を聴かなければならない」ということが定められております。

5.残余財産の国庫への帰属手続

相続債権者への弁済、受遺者への遺贈、特別縁故者への相続財産分与、共有者への持ち分の帰属の各段階を経ても、なおも残余財産がある場合には、当該残余財産は国庫に帰属することになります。

その帰属手続は、財産の種類に応じて以下の通りとなります。現金歳入徴収官より送られてくる納入告知書に基づいて納付する方法により国庫帰属します。動産のうち現金、船舶、不動産の従物等を除くもの家庭裁判所から通知を受けた物品管理官に引き渡す方法により国庫帰属します。財務大臣(具体的には各財務局)への引き渡しを行うもの・不動産・船舶、航空機等・不動産や船舶、航空機等の従物・地上権、地役権、工業県その他これに準じる権利・株式、新株予約権、社債、地方債等

相続財産管理人の活用例(選任の申立てがなされるケース)

相続財産管理人が、どのように選任され、どのような職務を行うかの概要はお分かりいただいたかと思いますが、具体的にどのような場面で活用されているのかについて以下、代表的なものを紹介します。

1.被相続人の債権者からの申立て

相続財産管理人が必要になる場面として、被相続人の債権者から申立てがなされるということがあります。

被相続人に債権者がいる場合であっても、相続人がその債務を引き継ぎ、弁済をする場合には何の問題もないといえます。

もっとも、被相続人の負債が財産より多い場合(債務超過といいます)には、相続人による「相続放棄」がなされることがあります。

その場合で、プラスの財産も一定程度存在している場合、被相続人の債権者としては、相続財産の清算を求めたいが、本来清算を求める相手方である相続人は相続放棄をしてしまっているということがあるのです。

そこで、被相続人の債権者から、自らの債権についての弁済(一部の弁済となることが多いです)を求めるため、相続財産管理人の選任を求める申し立てがなされることがあるのです。

2.相続人の特別縁故者からの申立て

相続財産管理人が必要になる場面として、特別縁故者から申立てがなされるということがあります。

特別縁故者とは、「被相続人と特別の縁故があった者」という意味であり、具体的には、「被相続人と生計を同じくしたいて者」「療養看護に努めた者」「その他特別の縁故があった者」(内縁の配偶者、事実上の養子、その他被相続人と特別の関係のあった親族等)です。

この「特別縁故者」が問題となる場面というのは、亡くなった方(被相続人の方)に相続人がいない場合ということになります。

相続人がいる場合には、被相続人の財産・負債等の権利義務を相続人が包括的に承継していくこととなるのですが、相続人がいない場合には、相続財産の財産と負債(プラスとマイナス)を清算して、残余財産がある場合(プラスの財産が残る場合)には、家庭裁判所の審判を受けて、「特別縁故者」に財産を分配することができるということが民法に定められているのです。

この点、「特別縁故者」には、財産を分与される保証はありませんし、分与される場合にも全ての財産が分与されるとは限らないのですが、やはり「被相続人と生計を同じくしたいて者」「療養看護に努めた者」のような一定の「特別な縁故」が認められれば、財産の分与が認められることが一般的なのです(特別縁故者に分与されても残った財産、もしくは分与すべき特別縁故者もいない場合には、行き場をなくした財産は国庫に帰属することになります)。

このように、「特別縁故者」としては、まずは相続財産の清算を行い、自らへの相続財産への分与を家庭裁判所に求めていくという必要があります。

一方、「特別縁故者」は、相続人ではないため、相続財産について基本的には処分をする権利がなく、財産の分与を求める前提として、相続財産の清算を自ら行うことはできません。

そこで、相続財産の清算を適正に行う「相続財産管理人」の選任を申し立てるという必要が出てくることがあるのです。

3.相続人から特定遺贈を受けた者からの申立て

相続財産管理人が必要になる場面として、相続人から特定遺贈を受けた 者から申立てがなされるということがあります。

そもそも、特定遺贈ってなんだろうということですが、特定遺贈とは、読んで字のごとく、特定の財産を遺贈するということです。

わかりやすくいうと、「私の財産をすべて○○さんに、遺贈する」というのではなく、「私の財産のうち、Aという不動産を○○さんに、遺贈する」「私の財産のうち、Bという株式を○○さんに、遺贈する」という場合です。

この場合、「私の財産をすべて○○さんに、遺贈する」という包括遺贈の場合と異なり、特定の財産を譲り受ける必要があり、また当該特定の財産が散逸・隠匿されないようにする必要があるため、特定遺贈を受けた者から、相続財産管理人の申立てがなされることがあるのです。

4.相続人との間に財産関係で清算が必要な者からの申立て

相続財産管理人が必要になる場面として、これまで見てきた場面以外にも、より一般的に相続人との間に財産関係で清算が必要な者から申立てがなされるということがあります。

例えば、被相続人の死後に、相続人であるAさんは、被相続人の退職金受領手続きをするように強く勧められ、死亡退職金を受領してしまったが、その後被相続人に多額の債務が発覚したので、相続放棄をしたとします。

このような場合、Aさんとしては、被相続人の死亡退職金を受領して保持する理由もなければ、保持したいとの気持ちがなくても、返還をする相手が存在しません。

そこで、被相続人の債権者から相続財産管理人の選任申立てがなされれば、そこで選任された相続財産管理人に対して、返還を行うことになります。

ですが、債権者からの相続財産管理人選任申立てがなされない場合、Aさんが本来被相続人の財産であるべき死亡退職慰労金に相当する金銭について清算を行うために(返還を行うために)、自ら相続財産管理人選任の申立てを行うということが考えられます。

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