遺産相続 寄与分と遺留分減殺請求の関係について

2021/06/09
遺産相続 寄与分と遺留分減殺請求の関係について

寄与分と遺留分減殺請求の関係について

寄与分は、昭和55年の民法の一部改正によって設けられたものですが、遺留分との関係については特に規定がないため、寄与分と遺留分減殺請求の関係をどのように考えるかが問題になります。

寄与分と遺留分減殺請求の関係

相続人の中に寄与分が認められる者がいる場合、遺留分はどのように感がれればいいのでしょうか。

寄与分は、特別の寄与をした者の相続分を増やすことで共同相続人間の公平を図るものです。

遺留分は、被相続人の意思の優先を制限して相続人に相続財産の一部の取得を保障するものです。

このように両者は異なる制度趣旨によって設けられたものであり、直ちに両者の抵触が問題になるわけではありません。

しかし、両者が競合する場面では、両者の優劣、調整等が必要になることもあります。

大きく分けると、

① 寄与分のある相続人に対し、他の相続人が遺留分減殺請求をする場合

② 寄与分のある相続にが、他の相続人や第三者に対し、遺留分減殺請求をする場合

が考えられます。

寄与分のある相続人に対する遺留分減殺請求

(1)寄与分により遺留分が侵害される場合

被相続人の相続開始時の財産が2400万円、相続人は子A・B・Cの3人で、Aが1800万円の寄与分を主張しているケースを例に、この場合の処理を考えましょう。

  • ① 遺留分算定の基礎となる財産まず、遺留分の算定の基礎となる財産は、【相続開始時に有した財産+贈与の財産-債務の全額】となります(民法1029条)。そして、特別受益と異なり、民法1044条が寄与分の規定(民法904条の2)を準用していないことから、寄与分は遺留分算定の基礎となる財産に影響を与えません。したがって、上の例では2400万円が遺留分算定の基礎となり、遺留分は2400万円×1/2×1/3=400万円になります。
  • ② 遺留分を超える寄与分を認めることができるか上の例で、Aの主張する寄与分を認めると、具体的相続分は、A 2000万円(200万円+1800万円)B  200万円C  200万円になり、①で算出した遺留分(400万円)を下回ります。遺留分を侵害するような多額の寄与分を認めることができるかどうかが問題となります。民法は、寄与分の定め方について、共同相続人の協議によるものとし、協議が調わないときや協議ができないときに、家庭裁判所が寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定めるとしています(民法904条の2第1項、2項)。つまり、条文上、寄与分の上限は明記されていないということになります。しかし、実務上は、裁判所が考慮する「一切の事情」として、他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかが含まれるとされています(東京高裁判決 平成3・12・24など)。この裁判例は、農家の相続の事案ですが、「ただ家業である農業を続け、これら遺産たる農地等の維持管理に努めたり、父の療養看護にあたったというだけでは、そのように長男の寄与分を大きく評価するのは相当でなく、さらに特別の寄与をした等特段の事情がなければならない。」としており、遺留分を超える寄与分が認められるのは、相続人が多額の財産上の給付をして相続財産を取得した場合など、例外的なケースに限られるでしょう。
  • ③ 寄与分に対して遺留分減殺請求をすることができるか共同相続人の協議により遺留分を超える寄与分が認められた場合、または家庭裁判所が例外的に遺留分を超える寄与分を認めた場合、遺留分減殺の対象が遺贈または贈与に限られていることから(民法1031条)、寄与分を減殺することはできません。

(2)寄与分のある相続人に対する遺贈または贈与により遺留分が侵害された場合

(1)の例で、被相続人が、「Aに寄与分として1800万円を相続させる」という遺言をした場合、B・Cは遺留分減殺請求をすることができるでしょうか。

寄与分を有する相続人に対する遺贈または生前贈与により遺留分が侵害される場合の処理を考えましょう。

  • ① 遺言で遺留分を定めることができるか民法上、遺言で寄与分を定めることができるという明文の規定はありません。また、遺言で寄与分を定めることができるとすると、(1)③で解説したとおり、寄与分を減殺できないことからすると、遺言者に遺留分を侵害する財産処分の自由を認めることになり、遺留分制度の趣旨を没却することになりかねません。したがって、遺言で寄与分を定めることはできないと考えられます。
  • ② 遺留分減殺請求をすることができるか遺言で寄与分を定めることができないとしても、遺贈として理解することは可能です。この遺贈に対しては、遺留分減殺請求ができると考えられています。

(3)遺留分減殺請求訴訟で寄与の事実を抗弁として主張できるか

被相続人が遺産全部を一人の相続人に包括遺贈する遺言をしたところ、他の相続人から遺留分減殺請求訴訟を提起された場合、被告となる包括受遺者は、寄与分を抗弁とする(遺贈のうち○割は寄与分であり、この部分については遺留分減殺ができないと主張する)ことができるかが問題となります。

この点については、「寄与分は、共同相続人間の協議により、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであり、遺留分減殺請求訴訟において、抗弁として主張することは許されないと解するのが相当である。」とした判例があります(東京高裁判決 平成3・7・30など)。

寄与分のある相続人による遺留分減殺請求

次に、寄与分のある相続人が遺留分減殺請求をする場合について解説します。

この問題は、遺留分を遺留分権利者各人の権利とみるか、遺留分権利者全員のために留保される財産とみるかということと関連します。

たとえば、被相続人の相続開始時の財産が3000万円、子であるA・B・Cが相続人で被相続人がDに1800万円の遺贈をし、Aに600万円の寄与分が認められるとします。

まず、A・B・Cによる遺産分割の対象は遺贈を控除した1200万円で、そこからAの寄与分を控除したものを法定相続分で分割し、Aはそれに寄与分を加算した額を取得します。

その結果、各人の取得分は次のようになります。

A 600万円+200万円=800万円

B 200万円

C 200万円

A・B・Cは被相続人の子ですから、それぞれ遺留分が500万円(3000万円×1/2×1/3)あります。

したがって、上の事例では、BとCは遺留分にみたない額しか取得できていないことになります。

ここで、遺留分を遺留分権利者各人の権利であるとすると、Aは遺留分を侵害されておらず、B・Cが遺留分減殺請求をすることができるという考え方も成り立ちます。

この考え方に従えば、B・Cは遺留分減殺請求により各自300万円を取得することができるということになります。

最終的な取得額は、A 800万円、B 500万円、C 500万円、D 1200万円になります。

しかし、この考え方に対しては、上記の例で言えば遺留分は全体で1500万円であり、被相続人は遺留分を除いた1500万円を自由に処分できるはずであるから、遺留分減殺請求を受けるのは300万円(1800万円-1500万円)だけではないかという批判があります。

そこで、遺留分を遺留分権利者全体のために留保される財産とみて、遺留分減殺請求ができるのは、遺贈の中で全体としての遺留分を侵害している300万円だけで、寄与分の有無にかかわらず、各自が法定相続分に相当する割合で減殺請求できるとする考え方が、学説上は多数説となっています。

この考え方に従えば、A・B・Cはそれぞれ300万円の1/3に相当する遺留分減殺請求をすることができることになります。

最終的な取得額は、A 900万円、B 300万円、C 300万円、D 1500万円になります。

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