遺産相続 寄与分

2021/06/09
遺産相続 寄与分

寄与分

寄与分制度は、民法904条の2において定められています。概要を説明すると、相続人が複数人おり、そのうちの一部の相続人が被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与(通常期待される程度を超える貢献といわれます)をした場合に、相続財産の評価額からその相続人による寄与分を控除したものを相続財産とみなし、各相続人の相続分を計算し、そのようにして算定された相続分に寄与分を加えたものを寄与のあった相続人の相続分とするのが、寄与分制度です。

この寄与分制度により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした相続人が、他の相続人より多くの財産を取得できるようになり、共同相続人間の公平が図られることになります。

『父親が営んでいた家業の飲食店を10年にわたって、ほぼ無償で手伝ってきたことで父親が相続財産を形成することができたのだから、それを考慮してほしい』 『父親を自宅に引き取って最期まで介護した。晩年少なくとも15年間は要介護状態であった父親を職業介護人の世話になることなく介護することができ、そのことで父親の財産減少をくいとめることができたのだから、そのことを考慮して遺産分割を進めてほしい』 等というご意向をお持ちの方は、いらっしゃるのではないでしょうか? ご両親やご親族のために無償で行ってきたこと、お金のためにしてきたことではないことかもしれないけど、まったく考慮せずに法定相続分通りの遺産分割を進めることに釈然としない思いを持たれる方もいらっしゃるのではないかと思います。

そこで、上記のような場合に、いわゆる「寄与分」という制度によって、被相続人のために貢献してきた人に多く遺産を分割するべきかという問題について、利害調整を図っていくことになるのです。

寄与分により多くの財産を取得できる者(寄与分制度の対象となる主体)

  • <原則>
     民法は、寄与分権者を相続人に限定しています。
    <相続人以外の者の寄与>
     繰り返しになりますが、民法は、寄与分権者を相続人に限定していると解されています。というのも、民法の条文は、明らかに「相続人」という文言を用いているからです。
     しかし、共同相続人以外の者がした特別の寄与(特別な貢献)について、その寄与が共同相続人の寄与と同視できるというような場合には、当該共同相続人は、その結果生じた財産の維持増加に対する寄与をも含めて自己の寄与分として請求する余地はあります
    代襲相続人による被代襲者がした寄与分の主張 代襲相続人は、被代襲者の寄与行為に基づく寄与分を取得することができます。例えば、被相続人の子である被代襲者が生前、被相続人の財産増加に特別の貢献(寄与)をしていたとして、被代襲者の子である代襲相続人(被相続人の孫)は、被代襲者の兄弟との遺産分割において、自分の親である被代襲者の寄与を主張することができます。
  • 相続人

直系卑属(ひぞく) 子供(=実子)、養子、内縁の妻や愛人の子供、胎児、あるいは孫、ひ孫
 直系尊属(そんぞく) 父と母、あるいは、祖父母
 代襲相続人 直系卑属の相続人が相続開始時に死亡していた場合、その子や孫

寄与分が認められるための要件

1.相続人自らの寄与があること寄与分が認められるのは相続人に限られると解されています。その理由については、相続人以外の者の寄与を含めて考慮に入れると、手続が煩雑になり遺産分割を遅らせてしまいかねないことが一つの理由として挙げられます。また、もう一つの理由として、相続人以外の者(相続人の配偶者等)は、契約関係を明確にして寄与の対価を受けることができるからであると説明されます。しかし、後者の理由については、実際には、相続人の配偶者が義父や義母の介護をしたり、事業を手伝うのに正当な対価を受領する等ということは通常ありえないことだと思われるので、説得力に乏しいとは思います。ただ、寄与分が認められるのは相続人に限られるという解釈の方が一般的な見解であるということは理解しておく必要があると思います。2.当該寄与分が「特別の寄与」であること寄与分が認められるためには、「特別の寄与」、すなわち被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献である必要があります。<特別の寄与に当たらないもの>
夫婦間の協力扶助努力(民法752条)、親族間の扶養義務・互助義務(877条1項)の範囲内の行為は、特別の寄与にはなりません。
すなわち、特別の寄与と認められる貢献の程度は、被相続人と相続人の各身分関係により差があります。3.被相続人の遺産が維持又は増加したこと寄与分が認められるためには、相続人の行為によって、その行為がなかったとすれば生じたはずの被相続人の積極的財産の減少や消極財産(債務)の増加」が阻止され、又はその行為がなかったとすれば生じなかったはずの被相続人の積極財産の増加や消極財産の限定がもたされることが必要です。ですので、財産上の効果のない援助は、寄与にはなりません。すなわち、被相続人の財産の維持又は増加という財産上の効果があることが寄与分の要件であり、財産上の効果のない精神的な援助・協力は、寄与として考慮されません。※「維持」とは、放置をしていれば財産が減少していたところ、当該寄与行為によって財産の減少を防止することができた場合のことです。4.寄与行為と被相続人の遺産の維持又は増加との間に因果関係があること当然のことではありますが、寄与行為は、全て財産上の効果と結びつく必要があります。すなわち、寄与の内容として、被相続人の精神的な支えになったというだけでは、寄与分は認められません。また、相続人の寄与行為にもかかわらず、被相続人の財産が減少した場合であっても、当然に寄与分が否定されるものではありません。寄与行為があることにより、相続財産の減少幅が小さくなったと認められる場合には、寄与分が認められます。

寄与行為の態様(代表的な類型)

一口に寄与行為と言っても、遺産分割公平に行うにあたって、世の中にある非常に多くの行為に対して、寄与分を認めるか否かという評価をすることになりますので、ある程度類型化して判断することが法的判断の安定性につながるという観点から、類型化が試みられた結果、以下のような類型化がなされておりますのでご紹介します(当然のことながら、この類型化は万能ではありません)。1.家業従事型(被相続人の事業に関する労務の提供)相続人が、被相続人が主体となって営んでいた家業(商業、工業、農業等)に従事することによって、被相続人の財産形成への寄与が認められる場合を「家業従事型」といって類型化されております。この類型において、特別の寄与が認められる具体的事情として、①特別の貢献 ②無償性 ③継続性 ④専従性が挙げられます。このうち、特に無償性が問題になることが多いと思われます。2.金銭等出資型相続人が、①被相続人の事業に関して財産上の支出をする場合、または②被相続人の生活上必要な支出のために財産上の支出をする場合などが「金銭出資型」という類型です。例えば、被相続人の医療費や施設入所費を負担した場合、被相続人が不動産を購入するにあたって資金を拠出した場合、等です。この類型の場合、金銭等を給付することにより認められるので、上記の家業従事型とは異なり、継続性や専従性等を考える必要がありません。3.療養看護型(被相続人に対する療養看護)「療養看護型」といわれる類型は、被相続人の病気療養中に、相続人が療養看護に従事した場合等です。この「療養看護型」においては、被相続人と同居し、家事の援助を行っているだけでは、寄与分が認められることは困難で、要介護認定を受けていたり、疾病等の存在等の療養看護の必要性の存在が、前提になります。4.扶養型相続人が、被相続人の扶養を行い、被相続人が、生活費の支出を免れたため、財産が維持された場合について、「扶養型」という類型で寄与分が認められます。この類型において、特別の寄与が認められる具体的事情として、①特別の貢献 ②扶養の必要性 ③無償性 ④継続性が挙げられます。具体的には、相続人が被相続人に対し毎月仕送りしていたとか、そもそも同居して衣食住の面倒をみていた場合等です。5.財産管理型相続人が、被相続人の財産を管理したことによって、被相続人の財産の維持・形成に寄与したといえるような場合、この「財産管理型」として寄与分が認められることになります。具体的には、不動産の賃貸管理等の場合です。不動産の賃貸管理の場合は、比較的立証が容易なため認められやすいといえます。この類型において、特別の寄与が認められる具体的事情として、①特別の貢献 ②財産管理の必要性 ③無償性 ④継続性が挙げられます。6.先行相続における相続放棄先行相続において特定の相続人が相続の放棄をし、これによって他の相続人の相続分を増大させた後、当該他の相続人について相続が発生した場合に、先行相続に相続放棄が特別の寄与に当たるかが問題となります。例えば、父の相続に際し、母が相続放棄をし、子に相続財産をすべて相続させた後、子が死亡して、母と子の妻が共同相続人となった場合、母が先にした相続放棄を寄与として主張した場合、それが寄与分として認められるかという問題です。これについては、はっきり判断した事例がみつかりませんが、先行相続での放棄等は寄与分にはならないとの解釈が多数説のようです。先行相続での放棄等を寄与分として認めてしますと、先行相続における遺産分割の結果を後の遺産分割において修正するのと同じ結果にならないかとの観点からこのような解釈がなされることが多いようです。しかし、先行相続からの時間的経過、先行相続で放棄がされるに至った事情等を考慮して、寄与分を認めるべき場合もあるとの説もありますので、簡単に寄与分として考慮されないと結論付けるのではなく、弁護士に事情を詳しく話をし、寄与分として主張するか否かを検討することが必要ではないかと思います。

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