遺産相続 遺産分割と特別代理人

2021/06/09
遺産相続 遺産分割と特別代理人

遺産分割と特別代理人

ある人が亡くなり、相続が開始すると、相続財産について遺産分割協議をすることになります。

この遺産分割の協議は、相続人全員で合意する必要があります。

それでは、相続人の中に未成年者や、障害を持っている人がいたり、認知症になっている人がいたりする場合には、どうすればいいのでしょうか?

親権と特別代理人

未成年の子供は父母の共同親権に服します。

未成年者が当事者となる法律行為(契約など)は、親権者が法定代理人として行うことになっています。

遺産分割協議も法律行為ですので、親権者が行うのが原則です。

しかし、親権者が未成年者の代わりに法律行為を行うのに適さないこともあります。

例えば、父親Aが亡くなって、母親Bと未成年の子供であるCとDの3人が相続人である場合で考えてみます。

この場合、母親Bと子供たちとの間には、利益相反があることになります。

利益相反とは、一方の利益になることが他方の不利益になる関係にあることを言います。

例えば、母親が、自分の取り分を多くして、子供たちの取り分を少なくすることが自由にできるということになってしまうということです。

自分はそんなことはしない!家族仲は良好だし、子供が大事だからむしろ子供に有利にしてあげたいというふうに考えていたとしても、客観的にみて、利害が対立する可能性があると考えられる場合には、利益相反であるとみなされるのです。

そこで、このように親権者と未成年者との間に利益相反がある場合には、未成年者に特別代理人を選任する必要があります。

しかも、未成年者同士が利益相反の関係にある場合にも、特別代理人を選任しなければなりません。そこで、未成年者CとDには、別々に特別代理人を選任する必要があります。

特別代理人が不要な場合

・相続分どおりに分割する例えば、自宅不動産の持分をBが2分の1、C及びDが4分の1ずつと法定相続分通りにすることを決めて、相続登記をするというだけであれば、特別代理人は必要ありません。ただし、相続分どおりに分けるとしても、Cは現金をもらい、Dは不動産をもらうというように、分け方を決めなければならない場合には、やはり、利益相反になる可能性がありますので、特別代理人の選任が必要になります。・母が相続放棄をする母が相続放棄をした場合には、子との間に利益相反はなくなりますので、子の法定代理人として、遺産分割に参加することができます。もっとも、この場合でも、母親Bは、CとD両方の代理人になることはできませんので、母親BがCの法定代理人として遺産分割に参加する場合には、Dには特別代理人が必要となります。

成年後見人

遺産分割協議は法律行為であり、法律行為を行うには、判断能力(事理弁識能力)が必要です。

認知症になっている人や、知的障害・精神障害のある人は、意思判断能力が十分ではないことから、法律行為である遺産分割協議を行うことができません。

判断能力が十分ではない人が法律行為をするためには、判断能力の程度に従って、後見、保佐、補助の3つの制度があります。

後見とは、判断能力を欠いていると判断された人に後見人が選任される制度です。

後見人は、本人(成年被後見人)の法定代理人として、財産管理権と身上監護権を持ち、本人に変わって法律行為を行います。

保佐とは、判断能力が著しく不十分であると判断された人に保佐人が選任される制度です。

本人(被保佐人)は、「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割」をするには、保佐人の同意が必要になります。また、本人の同意があれば、保佐人に「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割」について、代理兼が付与されます。

補助とは、判断能力が不十分であると判断された人に補助人が選任される制度です。補助開始には、本人の同意が必要です。

補助人は、特定の法律行為について、本人の同意のもとに、「同意権」もしくは「代理権」が付与されます。

そこで、「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割」という法律行為について、補助が必要であり、本人が同意した場合には、これに対する同意権もしくは代理権が補助人に与えられるということになります。

後見人、保佐人、補助人のいずれも、本人の意思を尊重する義務があります。

相続人の中に認知症の人や、知的障害・精神障害を持っている人がいる場合には、その判断能力の程度に応じて、後見人・保佐人・補助人を選任して、遺産分割協議を行います。

後見人等を選任するのは、家庭裁判所です。親族が後見人に選任されることもあれば、弁護士、司法書士などの専門職が選任されることもあります。

遺産分割の複雑さや財産が多額である場合、親族間で対立がある場合などは、専門職が選ばれる可能性が高くなります。

成年後見人と特別代理人

親族が成年後見人に就任すると、後見人と本人(成年被後見人)との間に利益相反が生じる可能性があります。

例えば、父Aと母Bと子Cと子Dの4人家族がいて、母Bが認知症を発症したため、子Cが、母Bの後見人に選任されていましたという場合です。

この状態で、父Aが亡くなった場合、父Aの法定相続人は、母Bと子Cと子Dになります。

しかし、子Cは、母Bの後見人であり、かつ法定相続人ですから、利益相反が生じます。このような場合はどうすればいいのでしょうか。

この事例で、母Bに成年後見監督人が選任されている場合には、成年後見監督人が、母Bの法定代理人として、遺産分割に参加します(後見監督人には、専門職が就任していることが多く、利益相反が生じることはあまりありません)。

成年後見監督人がいない場合には、母に特別代理人を選任し、その特別代理人が遺産分割協議に参加することになります。

後見人が、本人が判断能力を取り戻すか亡くなるかするまで、本人のために財産管理や身上監護を続けなければならないのに対して、特別代理人は、「この遺産分割協議のため」という目的を決めて選任されるという違いがあります。

特別代理人の決め方

子もしくは成年被後見人の住所地の家庭裁判所に特別代理人選任の申し立てを行います。

特別代理人選任の申立にあたっては、この人に特別代理人になってほしいという候補者を挙げて申立をすることができますので、法定相続人ではない親戚を推薦することが多くあります。

ただし、家庭裁判所が適格性を認めなければ、別の候補者をたてるなどの対応も必要になりますし、専門職が選ばれることもあります。

特別代理人の権限

家庭裁判所は、特別代理人の権限をなるべく個別具体的に明確に定めることによって、特別代理人の権限の乱用を防ぐようにしています。

特別代理人は、家庭裁判所に与えられている権限をよく確認して、未成年者もしくは、成年被後見人等のために遺産分割に参加することになります。

特別代理人の責任

未成年者の子や被後見人などの代理人ですから、本人に対して、善管注意義務を負います。つまり、本人本人以外の相続人の話を鵜呑みにするのではなく、遺産をきちんと調査するなどして、本人にとって最適と思われる選択をする必要があります。

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