遺言の優先順位
遺言があると、相続のときに揉めないという話はよく聞かれるかと思います。
では、遺言書が複数見つかった場合には、どうすればいいのでしょうか?
遺言の解釈の手法、内容が矛盾する場合の遺言の優先順位について解説します。
遺言の有効性、遺言の種類による優劣
遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
3つのうち、どの作成方法を選んでも優劣はありません。
ただし、遺言は厳格な要式行為ですので、それぞれの形式がきちんと守られていなければ無効になってしまいます。
自筆証書遺言とは、本人が直筆で記載する遺言のことです。
自筆証書遺言は必ず、①全文手書きすること(文章の訂正・変更にもルールがあります)、②日付を書くこと、③署名・押印することが必要で、このどれかを欠いていたら、法的に無効となります。
公正証書遺言とは、公証役場で、公証人に作成してもらう遺言のことです。
秘密証書遺言は、自分で遺言書を作成して署名押印し、これに封をします。
さらに、文書に押印したのと同じ印鑑で封印して、これを公証役場に持って行くという方法で行う遺言です。
公証人は、遺言書の内容は確認できませんので、内容の公証はせず、遺言書の存在のみを公証します。
秘密証書遺言は、全文手書きである必要はありませんが、署名は必ず自筆で行う必要があります。また、証人が2人以上必要です。
遺言の内容の解釈方法
遺言は、形式を厳格に守って作成する必要がありますが、内容についての規制はありません。
そのため、あいまいな内容の遺言が存在することもあります。
その場合には、遺言書の記載を形式的に解釈するだけではなく、遺言者の真意を探求する必要があるとされています。
なぜなら、遺言は契約ではなく、遺言者の単独行為であるため、契約相手の期待や取引の安全というものを保護する必要がないからです。
遺言が、遺言者の最後の意思を尊重するための制度ですから、「遺言者の真意」が何よりも重視されるのです。
遺言者の真意を探求するにあたっては、まずは、遺言書の記載を合理的に解釈しなければならないとされています。
最高裁判所平成13年3月13日判決では、遺言書の記載だけで、遺言者の真意の合理的な解釈ができる場合には、その他の要素も考慮した解釈をすることはできないと判示しています。
遺言書の記載だけでは合理的に判断できない場合には、遺言書の他の部分も含めた全記載との関連性、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などのその他の要素も考慮して、遺言者の真意を探求することになります。
この場合、例えば、遺言者の日記など広く遺言外の資料を利用することもできますが、当該資料を用いて探求される遺言者の真意については、遺言の記載自体に一応の手がかりがあることが必要であるとされています。
遺言の内容が矛盾する場合の優先順位は?
遺言書は、形式を守って作成されている限り、何通あっても、どれも有効に成立しているとみなされます。
そのため、例えば、1通目に不動産について遺言し、2通目に預貯金について遺言していている場合ならば、どちらも有効になります。
しかし、複数の遺言の内容が矛盾する場合には、その優先順位はどうなるのでしょうか?
遺言は、遺言者の最後の意思を尊重するためのものです。
そこで、複数の遺言の内容が矛盾する場合には、有効に成立している遺言書のうち、日付の新しいものが有効となります。
民法第1023条には、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と定められています。
そもそも、遺言は、自由に撤回、取り消しをすることができますが、これは、「遺言の方式に従って」撤回をする必要があります(民法第1022条)。
つまり、遺言の撤回は、上記の自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかの方式で、遺言を撤回する旨を示す必要があるというのが原則です。
もっとも、遺言者が遺言書を破棄した場合には、遺言を撤回したものと認められます(民法第1024条)
上記のような撤回の方法を取らないまま、複数の遺言を作成し、その内容に矛盾がある場合に、民法第1023条が適用されます。
この場合でも、日付の古い遺言書がすべて無効になるわけではなく、日付の古い遺言書のうち、日付の新しい遺言書の内容と「抵触する」内容の部分だけが撤回されたことになります。
この場合の「抵触する」とは、後の遺言を実現しようとすると、前の遺言の執行が不能になる程度に明白に内容が矛盾する場合をいうとされています。
さらに、判例上、後の遺言が、前の遺言と両立させない趣旨のもとになされたことが明らかな場合も「抵触する」に当たるとされています。
これを判断するには、やはり、新しい遺言と古い遺言の文言から合理的な解釈を導くことが基本ですが、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況等も考慮して、遺言者の意思を探求するということが必要になる場合もあります。