仕事中に同僚同士の間で交通事故が発生することは珍しくありません。
たとえば、同僚の運転する車に同乗していた際に同僚の運転ミスによりガードレールに接触したとか、会社の敷地内を車で進行していたところ、不注意で他の従業員に接触したというような事例が考えられます。
このような仕事中の同僚同士の事故を同僚災害(同僚間災害)といいます。
同僚間災害の場合、被害者のこうむった損害はどのように保障されるのでしょうか。
1.自賠責保険は使える
交通事故の被害にあった場合、通常は保険で支払ってもらいたいと考えるでしょう。
保険には、大きく分けて自賠責保険と任意保険の2種類があります。
このうち自賠責保険については、同僚間災害で負傷した場合であっても使うことができます。
自賠責保険は、交通事故の被害者を救済するため、加入が義務付けられるものです。
被害者救済という目的のため、自賠責保険は、重複契約の場合や保険契約者または被保険者の悪意によって生じた損害についてのみ、てん補の責めを免れるとされており(自動車損害賠償保障法14条)、免責が厳しく制限されています。
そのため、同僚間災害であっても免責されず、保険金を受け取ることができるのです。
2.任意保険は使えない?
(1)任意保険には多数の免責規定がある
自賠責保険は保険金の上限が決まっており、被害者の損害をすべててん補できるわけではありません。
ですから、被害者としては当然、自賠責でてん補されない損害は任意保険で支払ってほしいと考えるでしょう。
しかし、自賠責保険と異なり、任意保険には多数の免責事由を定めた規定が存在し、免責事由に該当する場合には、保険金が支払われません。
(2)免責規定の具体的内容
現在の任意保険は、対人賠償保険、対物賠償保険、車両保険、人身傷害補償保険などさまざまな保険を組み合わせて商品化されています。
任意保険の免責事由には、戦争や地震などによる損害のようにどの保険にも共通するもののほか、保険の種類ごとに特有のものがあります。
他人を死傷させて法律上の損害賠償責任を負った場合に保険金が支払われるのが対人賠償保険ですが、対人賠償保険に特有の免責事由として、被害者が次のいずれかに該当する場合があげられます。
- ① 記名被保険者(保険証券に記載された被保険者)
- ② 被保険自動車を運転中の者またはその父母、配偶者もしくは子
- ③ 被保険者の父母、配偶者または子
- ④ 被保険者の業務に従事中の使用人
- ⑤ 被保険者の使用者の業務に従事中の他の使用人
同僚間災害で問題になるのは、⑤の免責事由です。
(3)被害者が「被保険者の使用者の業務に従事中の他の使用人」の場合に免責される理由
それではなぜ被害者が「被保険者の使用者の業務に従事中の他の使用人」の場合は免責されるのでしょうか。
この免責条項が設けられた趣旨は、車両が業務に使用される場合、その運行によって業務に従事する使用人(従業員)が被災する危険が一般に高いために、その危険を定型的に保険の対象から除外し、業務中の事故により使用人(従業員)が被る損害の賠償は、一般的にこれを労災補償責任およびそれを前提とする労災保険法上の業務災害に関する保険給付に委ねることとしたところにあるとされています(横浜地裁川崎支部昭和55年2月14日判決)。
つまり、業務上災害については、労災保険や、民間の保険会社の提供する労働者災害総合保険(労災認定がされた場合に給付金の上乗せとして保険金を支払うもの)等の適用があるので、自動車保険の対象外とする方が明確であり、使用者の責任も明確になるということです。
(4)「業務に従事中」とは
同僚間災害では原則として対人賠償保険を使うことができませんが、実際には「業務に従事中」といえるかが微妙なケースもあります。
たとえば、同僚の運転する車に乗って通勤中に事故が発生した場合などです。
先ほど紹介した判例は、「業務に従事中」に該当するかどうかについては、労災保険法上の業務上および業務外の認定基準に準じて考えるのが相当であるとしています。
免責条項の趣旨が、労災の適用場面では自動車保険を免責する方が明確という趣旨から、そのように考えたものと解されます。
その上で、通勤途上の災害については、一般にはいまだ事業主の支配下にあるとはいえないから業務遂行性はなく、その間に発生した災害は業務起因性が認められず、業務外の災害としつつ、例外的に事業主が専用の交通機関を労働者の通勤の用に供している等その利用に起因する災害に業務起因性が認められるときや、通勤途上で用務を行なう場合等で業務遂行性が認められるときには業務上の災害とされることがあると判断しました。
この判例に従えば、たとえば会社が従業員の送迎用にマイクロバスを提供している場合に、会社の従業員であるマイクロバスの運転手の過失により自損事故が発生し、乗車していた他の従業員が負傷したような場合は、業務上の災害にあたり、「業務に従事中」に該当することになり、対人賠償保険が使えないということになります。
(5)例外的に対人賠償保険が使える場合
使用人が自己所有の自動車を会社の業務に使用中に事故を起こし、同乗していた同僚を死傷させたような場合、使用人は労働者災害総合保険に加入することができないため、使用人にはリスクを軽減する手段がないことになってしまいます。
そこで、個人の車両の場合には、「同僚災害担保特約」が自動的に付けられており、例外的に対人賠償保険を使うことができます。
3.任意保険が使えないときの対応
(1)労災保険の給付を受ける
2.(3)で紹介した判例が述べるとおり、業務上の災害として労災保険の給付を受けることができます。
ただし、労災保険で給付されるのは、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭料といったもので、休業給付は給付基礎日額の全額がもらえるわけではありませんし、慰謝料のようなものは支給されません。
したがって、労災保険だけでは、被害者の損害の全てをてん補することはできません。
(2)人身傷害補償保険を使う
人身傷害補償保険は、契約車両に搭乗中の人が死傷した場合に保険金を支払う特約です。
同僚の運転する車両に同乗中に死傷したような場合、人身傷害補償保険に加入していれば保険金をもらうことができるのです。
ただし、保険金は保険会社の基準により計算されるため、通常は裁判をした場合に認められる賠償額よりも低い額になってしまいます。
(3)加害者個人に請求する
加害者個人に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができるのは当然です。
ただし、同僚という関係から、加害者に対して強く言えないこともあるでしょうし、死亡や重大な後遺障害が残った場合など損害額が多額になるときは資力の問題もあります。
(4)会社に使用者責任を問う
使用者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項)。
そこで、会社に対して使用者責任にもとづく損害賠償請求をすることが考えられます。
会社が労働者災害総合保険に加入してる場合は保険金を支払ってもらえるので、会社に対して損害賠償をするという精神的負担や会社の無資力というリスクを負わずにすみます。