交通事故 過失割合を決める手続き

2021/06/10
交通事故 過失割合を決める手続き

過失割合に争いがある場合に過失割合を決定する手続きについて

過失割合の認定は、①交通事故の態様・状況(事実関係)の確定→②確定した当該事故の態様・状況が緑本の基準のどの類型に該当するか判断して基本的過失割合を定める→③修正要素を加味して最終的な過失割合を認定するというプロセスを辿ることになります。

①から③のそれぞれの段階で両当事者の主張が食い違った場合、過失割合を決めることは容易ではありませんが、一般的には、以下のような手続きで両当事者間の主張を調整して妥当な過失割合を決定することになります。

相手方保険会社との示談交渉による解決

交通事故が発生した場合、多くの場合、交通事故の被害者は、加害者加入の任意保険会社から、当該交通事故の過失割合は何:何であるか(例えば、100:0とか、90:10とか)について、提案を受けることになります。

そこでは、交通事故の態様(事実関係)に争いがなければ、緑本の基準のどの類型に該当するかという判断を前提に(緑本の基準に当てはめることができない態様の事故を除く)、過失割合の提案を受けることになると思われます。

相手方保険会社の担当者が過失割合について、緑本のコピーを示す等の根拠を示して、どこまで説得を試みるのか、この事案は、90:10が当たり前ですよという対応をするのか、その点はまさにケースバイケースといえますが、示談提示を受けられた際に、過失割合を何:何に定めるのか、という点について判断をすることになります。

この示談提示を受けたタイミングか、もしくはそれ以前に保険会社から過失割合について説明を受けたタイミングで、その過失割合で構わないと判断すれば、合意することになるでしょうし、納得できないもしくはその判断が正しいのか迷うということであれば、弁護士等の専門家に相談するのも一つの方法です。

余談ですが、被害者が提示された示談案に応じる意向を示せば、相手方保険会社から、「免責証書」といわれる書面が送付されてきます。

この免責証書とは、簡単に説明しますと「合意した金額の賠償金を支払ってくれれば、それ以上は請求しません。加害者を免責します。」という被害者の意思表示が記載された書面で、それによりいわゆる示談が成立した、すなわち示談書と同じ意味の文書といえます。

すなわち、被害者が免責証書に署名押印すると、加害者との間で示談契約が成立し、示談契約の確定効(民法696条)により、免責証書に定められた内容以外の請求はできないことになるのです。

このように、免責証書に署名押印すると、加害者(相手方保険会社)に請求できる損害賠償の範囲が確定するため、安易に署名押印せずに、本当に示談を成立させいいのかは慎重に検討しましょう。

この免責証書の内容で署名押印していいのか分からない、不安という方は、弁護士等の専門家に事前に免責証書をチェックしてもらうと良いでしょう。

民事調停による解決

相手方保険会社との示談交渉で過失割合について合意に至らなかった場合、実務上は裁判で決着をつけるために加害者を被告として損害賠償請求訴訟を提起することが多いですが、あくまで話し合いに基づく合意による紛争解決を望む被害者の方は、「調停」の利用を検討してみると良いでしょう。

調停には、訴訟と比較して費用が低廉、簡易な手続により迅速に紛争解決できる、証拠関係だけでなく当事者の意向を踏まえた解決を図ることができる、といったメリットがあります。

もっとも、調停はあくまでも当事者間の合意による紛争解決手続ですから、話し合いがまとまらない場合は調停不成立となり、訴訟とは異なり、紛争が解決できるとは限らない、というデメリットもあります。

調停も当事者の話合いによって一定の合意を目指す点では示談交渉と同じですが、裁判官1名と民間から選ばれた2名以上の調停委員によって構成される中立公正な調停委員会が話合いを仲介してくれます。

したがって、自分の言い分を全く聞き入れてもらえずに不当な内容の過失割合が認定される心配はありません。

調停委員会は、当事者の話合いを仲介するだけでなく、その判断に基づいて調停案を提案することもあります。

当事者双方が調停案に納得して応じれば調停成立となり調停調書が作成されることとなります。

調停調書には、確定判決と同様に、いわゆる執行力が与えられます。

すなわち、加害者が調停成立後に過失割合にやはり納得がいかない等と主張し始めたとしても、調停調書に定められた金銭支払いを任意に履行しない場合には、強制執行を申し立てることができるのです。

ADR(裁判外紛争解決手続)による解決

ADRとは何か

ADR(裁判外紛争解決手続)とは、裁判所が介入しない民事紛争解決手段というもので、ごく簡単に言えば、裁判所以外の機関が仲介に入る形で、「双方の合意による解決」もしくは、「仲裁判断の受諾」という形で紛争解決を目指す手続きになります。

ADRは、交通事故に限らず、紛争解決のために利用できる手続きですが、交通事故紛争におけるADRとしては、「公益社団法人 交通事故紛争処理センター」や「公益社団法人 日弁連交通事故相談センター」といった機関があります。

公益社団法人 日弁連交通事故相談センターにおける手続

このうちの「公益社団法人 日弁連交通事故相談センター」における手続を紹介しますと、「示談あっ旋」と「審査」の2段階に分かれています。示談あっ旋の手続き「示談あっ旋」は、過失割合や賠償金額等について、同センターの弁護士が中立な立場から、双方の事情を聞いたうえで、緑本や「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通称「赤本」)、「交通事故損害額算定基準」(通称「青本」)、類似する事案の裁判例等を参考にして、示談案を提示して、「双方の合意による解決」を目指すものです。しかし、示談あっ旋は当事者に合意を強制するものではありませんから、一方当事者が合意を拒否すればその時点で示談あっ旋は終結し、示談不成立となります。審査の手続き示談不成立となった場合には、次に被害者側から「審査」の申出を行うことができます。
「審査」は、3名の専門家によって構成される審査委員会が審査を行って判断を下すという手続です。この「審査」の手続きの特徴は、被害者側から審査の申出ができる9つの共済が限定されてはいるものの、被害者は審査の結果を受け入れるか否かの判断ができるのに対し、共済側は審査の結果を尊重しなくてはならないとされており、審査の結果出た評決の受け入れを拒否することはありません。

1.全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)の「マイカー共済」に加入。
2.教職員共済生協(教職員共済生活協同組合)の「自動車共済」に加入。
3.JA(農業協同組合)の「自動車共済」に加入。
4.自治協会(全国自治協会)・町村生協(全国町村職員生活協同組合)の「自動車共済」に加入。
5.都市生協(生活協同組合全国都市職員災害共済会)の「自動車共済」に加入。
6.市有物件共済会(全国市有物件災害共済会)の「自動車共済」に加入。
7.自治労共済生協(全日本自治体労働者共済生活協同組合)の「自動車共済」に加入。
8.交協連(全国トラック交通共済協同組合連合会)の「自動車共済」に加入。
9.全自共(全国自動車共済協同組合連合会)の「自動車共済」、全自共と共済連(全国中小企業共済協同組合連合会)の「自動車共済(共同元受)」に加入。

なお、「審査」の結果である「評決」を下すにあたっては、示談あっ旋同様、緑本や赤本、青本、裁判例等を参考に過失割合、賠償額を認定しているようですので、裁判の結果と大きく異ならない結論を得ることができる場合が多いと考えられます。

裁判(訴訟)による解決

裁判(訴訟)は、裁判所が証拠関係に基づいて、事実関係の認定、法的判断を行うための手続きですから、これまで述べた方法によっても過失割合が定まらなかった場合に、最後の手段として、裁判(訴訟)において、過失割合に関する紛争を解決することができます。

裁判では、交通事故の被害者と加害者がお互いに自分に有利な証拠と主張を展開することになります。

過失割合を決める上で前提となる交通事故の態様・状況(事実関係)に争いがあり、それが埋まらない場合には、示談や調停等よりも裁判の方がより適切に紛争解決ができることが多いといえるでしょう。

また、判決に至る前に、裁判所が得た心証(裁判所として妥当だと考えている解決についての考え)を開示したうえで、和解協議を行い、判決に近い形で和解によって裁判を終結させることも実務的には良く行われています。

裁判手続きによることのメリットは、すでに述べたように、相手の意向に関係なく、裁判手続き内で何らかの最終的な解決(法律業界では終局的な解決といったりします)を得ることができることです。

しかしそれと引き換えに、事実や法的な判断を裁判所という公的機関が下すわけですから、慎重な手続きが必要となり、時間がかかってしまうことと、事故の当事者に証人尋問という不慣れで緊張する場面を経験しなければならない可能性があるというデメリットがあります。

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