交通事故 高次脳機能障害

2021/06/10
交通事故 高次脳機能障害

高次脳機能障害

1.高次脳機能障害とは

交通事故の損害賠償で問題となる、脳外傷による高次脳機能障害とは、交通事故により脳に損傷が生じることで障害が残ってしまい、外見上は回復したようにみえても、認知障害や記憶障害(記憶力が低下したり)、行動障害(集中力が持続できなくなったり)、人格変化(従前と人格が変わる)などの症状が生じ、社会生活における適応能力が低下または喪失し、程度によっては社会復帰が困難になる後遺障害のことを「高次脳機能障害」といいます。

2.高次脳機能障害はわかりにくい後遺障害

高次脳機能障害は、醜状障害や関節機能障害のように外見上明らかな障害ではありません。すなわち、あなたの家族が交通事故によって頭部に大きな衝撃は受けたものの、外傷がよくなり、これまでと同じように生活することになったとして、少し様子に変化があったとしても一時的に調子が悪いだけなのかなと考え、高次脳機能障害である可能性について気づかないこともあります。「集中力が持続しづらくなった」「怒りっぽくなった」といったことが実際にあったとしても、家族としては気のせいかなと捉えてしまいがちです。また、高次脳機能障害は、CTやMRI等の検査画像からも、明らかな点状出血や脳室拡大や脳萎縮が確認できないこともよくみられます。すなわち、高次脳機能障害は、その症状や画像所見で明らかになりにくいという点から、周りからは把握しづらい、理解されにくい(簡単にいうとわかりにくい)後遺障害であるといえます。

3.高次脳機能障害の主な症状

高次脳機能障害になってしまうと、具体的に以下のような症状が出現します。

【記憶障害】

側頭葉内側の障害により引き起こされる症状
「以前は記憶していたはずのことが思い出せない」
「新たに何かを覚えることが難しくなる」
「何かと忘れっぽくなる」
「ついさっき質問したことと同じ質問をしてしまう」
といった症状が思い当たらないでしょうか??【注意障害】前頭葉や頭頂葉の障害で引き起こされる注意障害
「集中力を持続するのが難しくなり、ミスが多くなる」
「話が回りくどくなったり、まとまりのない話をしてしまったりする」
といった症状が思い当たらないでしょうか??

【遂行機能障害】

前頭葉の障害により引き起こされることが多い遂行障害。
「計画的に行動できなくなった」
「気が散りやすくあきっぽくなった」
「約束の時間を守ることができない」
といった症状が思い当たらないでしょうか??

【社会的行動障害】

前頭葉と側頭葉の障害によって引き起こされることが多い社会的行動障害
「自己中心的で感情を抑えることが難しくなる」
「自己中心的で暴力的なところもあり子どもじみた行動を起こすこともある」
といった症状が思い当たらないでしょうか??これらの症状や機能障害がみられた場合には、高次脳機能障害が生じている可能性があります。上で述べたように、高次脳機能障害は、わかりにくい病気であるため、少しでも疑わしいと感じられた場合には、高次脳機能障害について専門的に取り扱っている病院を受診されてください。

4.高次脳機能障害の後遺障害等級について

交通事故により高次脳機能障害を負ってしまった場合に、適正な賠償を得るためには、他の後遺障害と同様に、自賠責の後遺障害認定において適切な等級認定を受けることを目指すべきです。そこで、まずは、どのような場合に何級の後遺障害認定を受けることができるかについてご説明しますと、以下の表のようになります。

別表
1級
1号
神経系統の機能は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回りの動作に全面的介護を要するもの
別表
2級
1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人では外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの
別表
3級
3号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活 範囲は自宅に限定されていない。また、声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶力や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
別表
5級
2号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの
別表
7級
4号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの
別表
9級
10号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの

5.高次脳機能障害が自賠責の後遺障害として認められるために必要なこと

交通事故によって生じた機能障害のレベルと自賠責の後遺障害等級の関係は上の表の通りであるとして、次に、どのような場合に高次脳機能障害を自賠責が後遺障害として認定してくれるのか、ということについてご説明します。自賠責は、以下の5つが認められる場合に、高次脳機能障害を後遺障害として認定するといわれています。

(1) 初診時に頭部外傷の診断を受けたこと

(2) 交通事故による頭部外傷が生じた後に重度の意識障害であれば6時間以上、軽度の意識障害であれば1週間以上の意識障害が継続したこと

(3) 高次脳機能障害、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷病名が後遺障害診断書に記載されていること

(4) 知能検査、記憶検査等の神経心理学的検査で異常が見られ、高次脳機能障害の典型的な症状といわれている症状(集中力が低下した、記憶力が低下した等)がある旨後遺障害診断書に記載されていること

(5) 頭部のMRI画像上、初診時の脳外傷と頭部外傷から3か月以内に脳室拡大や脳萎縮が明らかであること具体的には、交通事故による受傷の場合、高次脳機能障害による後遺障害等級認定を受けるには、症状固定時に「自動車賠償責任保険後遺障害診断書」を書いてもらう必要があります。そして,上記の5つが認定できる後遺障害診断書を書いてもらうためには,事故発生直後から後遺障害が固定されるまでの治療の過程において,頭部の画像検査資料(レントゲン写真・CT・MRI等)などによる「医師の診断による具体的な所見」と「家族や介護者(あるいは本人)による日常生活状況の報告」の二つの記録を後遺障害申請に向けて意識的に残しておくことが重要となります。

6.高次脳機能障害の賠償問題を解決するために

高次脳機能障害による後遺障害の損害賠償の問題を解決すること,すなわち適正な損害賠償金を支払ってもらうことは、被害者の身体的機能や脳の機能の回復の次に重要なこととなります。

事故後の生活の不安を解消するためにも、じっくりリハビリテーションに取り組むためにも,加害者側の保険会社から、妥当な損害賠償金を支払ってもらうことがとても重要になるのです。この損害賠償の問題を解決するためには,まず症状に応じた等級を含めて適正な後遺障害認定を受けることが先決です。

なぜならば,後遺障害等級が何等級に認定されるかによって、損害賠償額も大きく変わってくるからです。例えば、後遺障害の慰謝料だけをみても、1級の場合は2800万円が妥当な金額といわれていますが、2級の場合は2370万円、5級の場合は1400万円が妥当な金額といわれています。

また、後遺障害等級によって、今後交通事故被害者の方が、働いて得られたであろう収入が減少したと評価できるために認められる損害(これを逸失利益といいます)についても、1級や2級であれば労働能力が100%失われたと評価されるのに対して、5級の場合には79%、9級の場合には35%が失われたと評価されることになり、等級によって認められる損害賠償金額が大きく変わってくるのです。

交通事故に遭われて治療中であるにもかかわらず,完治しなかったときのこと,すなわち後遺障害が残ることを前提に準備を進めていくことには,違和感を感じられるご家族の方も多いと思います。

しかし,高次脳機能障害は,これまでも述べました通り,外からは分かりにくい病気であり,また後遺障害として認定を受けることが容易とはいえない後遺障害であることから,後遺障害申請までの準備がどうしても必要となってきます。当法律事務所では,この準備の段階から,被害者やご家族の方をサポートしていくことができますので,不安を抱えていらっしゃる場合には,是非一度ご相談ください。

また,当事務所では,すでに後遺障害認定を受けられた方からも,多数のご相談をお受けしており,後遺障害の程度に応じて,損害賠償として認められるもの認められないものをアドバイスしたり,妥当な金額を算定するなどして,被害者の代理人として相手方保険会社と交渉もしくは訴訟により適正な損害賠償金を獲得するために徹底して戦います。

とくに,高次脳機能障害を負われた方やその家族にとっては,リハビリや日常生活における介助などのご苦労があり,そのうえで損害額の証明という困難な作業をご自身でなされるのは一般論としてとても難しいと思います。

是非,交渉や訴訟の専門家である弁護士にご相談ください。

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